第169回 芥川賞・直木賞贈呈式レポート 受賞作品の評価ポイントは?
日本文学振興会主催による第169回芥川賞・直木賞の選考会が7月19日、築地「新喜楽」にて開かれ、芥川賞は市川沙央『ハンチバック』(文學界5月号)』に決まった。直木賞は垣根涼介『極楽征夷大将軍』(文藝春秋)、永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』(新潮社)が選ばれた。
今回の選考を務めたのは(50音順・敬称略)、芥川賞の選考委員(五十音順)は小川洋子、奥泉光、川上弘美、島田雅彦、平野啓一郎、堀江敏幸、松浦寿輝、山田詠美、吉田修一。直木賞の選考委員(五十音順)は、浅田次郎、伊集院静・角田光代・京極夏彦(新任)・桐野夏生・髙村薫・林真理子・三浦しをん・宮部みゆき。
芥川賞を受賞した市川沙央は、1979 年生まれ。早稲田大学人間科学部(通信教育課程)卒。2023 年に『ハンチバック』で第 128 回文學界新人賞を受賞しデビュー。市川は先天性の難病をもつ重度障害者で、人工呼吸器や電動車いすを使用。デビュー作『ハンチバック』で、芥川賞受賞という快挙となった。
芥川賞の選考委員を代表し、平野啓一郎が講評を述べた。受賞作について、「最初の投票から選考委員会ら圧倒的な支持を得て、最初の投票で決まりました。作品としての強さが選考委員から語られました」と、選考経過を説明。続けて、内容について「本作の主人公は特殊な困難を抱えて生きています。重度の障害をもつ作者の実際の状況と作品、社会との関係が高いレベルでバランスがとられた稀有な作品として支持を集め、受賞が決まりました。否定的な評価は無かったが、解釈に関してはいろいろな意見が提示されて議論が盛り上がり、2作受賞の可能性も検討しましたが、最終的には1作のみの受賞となりました。作者が今後どのような作品を書くのか、期待する声も大きかったです」と述べた。
先立って行われた芥川賞の受賞会見で、市川沙央が登壇。「訴えたいことがあって、去年の夏に初めて書いた純文学が『ハンチバック』です。芥川賞の会見の場にお導きいただいたことを嬉しく思います」と、受賞の喜びを語った。そして、「受賞は姉に真っ先にLINEしました。(受賞は)私にとって自信になると思います。小説を書き始めて20年の中で、芥川賞を目指してはいなかったので驚いています。会見はニコニコ動画で最近予習していましたので、感慨深いです」と述べた。
また、記者からの質疑応答があり、「重度障害者という当事者性を出すことはOKです。当事者がいないことを問題視して書いた小説ですし、2023年になって芥川賞に重度障害者が受賞は初めて受賞したのか、みんなに考えてもらいたいと思っています」と述べた。また、執筆の手段について、「自分に合った機器を見つけるまでは苦労しましたが、現在はiPad miniが一番合っています。また、障害者が読みたいものが読めるよう、読書バリアフリーへの環境整備も進めて欲しい」と語った。
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