映画『君たちはどう生きるか』子どもには理解できない作品なのか? 思い出されるのは作家・ロアルド・ダールからの影響

  宮崎駿監督の映画『君たちはどう生きるか』を観た。最初は予備情報なしで、そしてたくさんの映画レビューを閲覧した上でもう一度。

  インタネット上のレビューでは、絶賛するコメントだけではなく厳しい意見も少なくない。「過去作品の中で一番の駄作」といった酷評も見かけた。

  気になった意見としては、
・子どもと一緒に映画館へ行ったが、子どもは寝てしまった
・子どもを連れて観に行く映画ではない……
  など「子どもには理解できない作品」という評価が多く目に付いたことだ。壮大な世界観を構築しながら、常に子どもに寄り添ってきた宮崎映画。だが、『君たちはどう生きるか』ばかりは、子どもたちをおいてきぼりにした映画だったのだろうか。

 このことを考えるとき、ある作家を思い出す。

ロアルド・ダール

  映画『チャーリーとチョコレート工場』の原作、『チョコレート工場の秘密』を書いた作家であり、宮崎駿の作風に大きな影響を与えたことはよく知られている。

 ダールの初期作品である、自身の戦争体験を元にした戦記物語は特に宮崎氏のフェイバリットであり、『紅の豚』に挿入される飛行機の墓場のシーンは、ダールの初期短編集『飛行士たちの話』(ハヤカワ文庫)の「彼らは年をとらない」からヒントを得ている。
そして、『単独飛行』(ハヤカワ文庫)では、宮崎氏が巻末に解説を寄せており、そこで興味深い一文を見つけたので抜粋してみたい。

 「『チョコレート工場の秘密』を読んだとき、彼はただものじゃないと思いました。ぼくは子どものことについて、それなりに関心を持っているつもりですが、あの作品は自分の中にすっと入ってきませんでした。『おばけ桃の冒険』もそうです。『チョコレート工場の秘密』は子どもたちにとても人気のある作品ですが、トルストイの『三びきのくま』と同じように、大人が見るとどこが面白いかわからないからでしょう。子どもの本はいかにあるべきか、どういうものを子どもが喜ぶか、という理屈の圏外にあって、深い心のレベルで、言葉で理解できる範疇を超えたもう少し底の方に『三びきのくま』が入りこんでいるんです。そういう意味では『チョコレート工場の秘密』も同じなんだと思います。大人ではもう分からなくなっている部分があるんです」。

  ダールの代表作である『チョコレート工場の秘密』は、児童書でありながらブラックジョークが効いてとてもユーモアに溢れた作品だ。ちょっと残酷な描写、不条理なファンタジー、メッセージ性もあるので大人でも十分楽しめる。

  この小説を読んで、物語の整合性を求める者はいないだろうし、むしろファンタジーの世界にどっぷり浸ってこそ楽しめる。

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