『名探偵コナン』や『金田一少年の事件簿』を先取り? ミステリーの巨匠・宮脇明子『名探偵保健室のオバさん』を読む

 マーガレットコミックスにて90年代初めに連載されていた『人魚伝説』(集英社)は、人間の肝を食べる人魚の伝説が残る海辺の田舎町で発生した殺人事件を描いたものだ。女性の内蔵を取る連続殺人事件の発生と、ミステリアスな親子が引っ越してきたタイミングが重なったために、少女は親子を人魚だと思い込む。疑念がさらなる疑念を呼び、妄想に取り憑かれていく中、その地で伝えられている人魚伝説が真実味をおび始める。

 ホラー要素とサスペンスを組み合わせた『バースデイプレゼント』も、『人魚伝説』のように妄想や疑惑が生徒たちの心を蝕む。病弱のクラスメイトを見舞った6人は、八つ当たりのように呪いの言葉を吐かれてしまう。その後、病弱のクラスメイトは15歳の誕生日を迎える前に他界。その直後から、まるで呪いが現実のものとなったような不幸が6人を襲う。本作も、死んだクラスメイトが自分達を呪っているかもしれないという疑惑が6人を恐怖に陥れ、さらなる事態を呼ぶ。

 宮脇作品は、疑念や疑惑が非現実さを生み、まどろみの中で物語が展開しているようだ。そしてそれは、現実社会を生きる私たちにも起こりうる。その曖昧さが魅力的なのだ。

 この他、『フランダースの犬』でパトラッシュと共に死んだネロが、もしも生きていたら……? を描いた『ネロ〜Noir〜』(青泉社)や、ジャンヌ・ダルクと共に戦った英雄でありながら連続殺人犯になった『ジル・ド・レ』(青泉社)もオススメだ。『ジル・ド・レ』は駆け足で展開している感が否めず、あっさりとした仕上がりだが、『ネロ〜Noir〜』はネロの悲痛な人生に涙した人々にとっての救いになる物語であると言えるだろう。90年代に連載されていた作品だが、今読んでも面白さは色褪せない。Kindle Unlimitedに加入していれば無料で読める作品もあるので、ぜひ手に取ってみてほしい。

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