世界初のNFT電子書籍で新たな“本の可能性”を拓く 早川書房の新レーベル「ハヤカワ新書」始動
早川書房が新たにスタートする新書レーベル「ハヤカワ新書」の記者発表会が、6月1日に開催された。6月20日に創刊される同レーベルの5タイトルは、メディアドゥと共同で開発した「NFT電子書籍付き」版も販売されることが明かされ、紙とデジタルの利点を組み合わせた新たな“本の可能性”を予感させる発表会となった。
早川書房のノンフィクション分野ではこれまで、主に海外の最先端の動向・知見をいち早く日本の読者に伝えるべく、サイエンス、人文、ビジネスなどのジャンルで時代の一歩先をゆく翻訳書を刊行してきた。今回創刊するハヤカワ新書は、「未知への扉をひらく」とのコンセプトのもと、日本の著者による書き下ろしを中心に刊行される。
創刊ラインナップは、モデルの滝沢カレンが古今東西の名作小説のタイトルから発想を飛躍させて物語をつむぐ『馴染み知らずの物語』、エラリイ・クイーンやアガサ・クリスティーの作品から英語を学べる越前敏弥の『名作ミステリで学ぶ英文読解』、架空の旅のガイドブックを通して化石の発見が相次ぐ古生物天国・日本の魅力を読み解く土屋健の『古生物出現! 空想トラベルガイド』、解剖学者や言語学者やメタバース専門家など各界の俊英が「現実とは?」との問いに応える藤井直敬の『現実とは?ーー脳と意識とテクノロジーの未来』、教育の名のもとに行われる違法な虐待行為に迫った石井光太の『教育虐待ーー子供を壊す「教育熱心」な親たち』の全5タイトル。装幀・レーベルロゴは、ジャンルを超えて幅広く活躍しているグラフィックデザイナー・佐々木俊が手がけている。
登壇したのは早川書房より代表取締役副社長の早川淳氏、事業本部本部長の山口晶氏、ハヤカワ新書編集長の一ノ瀬翔太氏、株式会社メディアドゥより代表取締役社長CEOの藤田恭嗣氏、取締役副社長COOの新名新氏、FanTop事業本部部長の佐々木章子氏の6名。
ハヤカワ新書編集長の一ノ瀬氏は、同レーベルの「未知への扉をひらく」とのコンセプトについて「新書は読者が“未知と出会う”のに最適な媒体。新書の棚にはあらゆるジャンルの本が並んでおり、基本的に書き下ろしで、しかも手に取りやすい価格帯。我々が培ってきた知見を活かせる」と紹介。注目の滝沢カレンの新書については「古今東西の名作のタイトルをヒントに、滝沢カレンさんが新しい物語を紡いでいる。滝沢カレンさんならではのハッとする表現、予想もつかない超展開があり、言葉はこんなにも自由で良いんだと気付かせてくれる一冊」と読みどころをアピールした。また、NFT電子書籍付き版には、書籍に未収録の対談や動画コンテンツなどの特典が付くことも明かされた。
株式会社メディアドゥの藤田氏は、NFT電子書籍付き版について「NFT電子書籍は世界でも初めての試み。通常の電子書籍は欲しい人がいれば、際限なく何人でも購入できる。NFT電子書籍が大きく違うのは、個数の概念を持つこと。欲しい人が1万人いて、1000部しか発行されない場合、残り9000人は購入できない。しかし、先に買った人が売ることで二次流通させることができ、その利益の一部を作家や出版社に還元できる」「NFTプラットフォーマーは世界にたくさんあるが、我々はアート作品などではなく、デジタル・コンテンツを流通させるNFTプラットフォーマーを目指したい。この仕組みを使って、しっかりと作家や出版社に印税をお戻しすることによって、結果として投機的になりにくいプラットフォームを構築できれば」と意気込みを語った。
今回、ハヤカワ新書のNFT電子書籍付き版が刊行されるプラットフォーム「FanTop」は、メディアドゥが2021年10月にスタートしたもので、これまで「NFTデジタル特典付き出版物」を展開してきた。メディアドゥの佐々木氏は、FanTopで新たに流通させるNFT電子書籍について、「作家や出版社が作品毎に設定可能な“コンテンツ利用料”があり、クリエイターファーストな環境」と、その利点をアピールした。NFTマーケットに正規の著作物を流通させる仕組みは、読者、著者、出版社、さらに書店にとってもメリットが生じるという。
早川書房の山口氏、一ノ瀬氏、メディアドゥの新名氏による鼎談では、今回の試みでユーザーの読書体験がどのように変わるのかを語り合った。一ノ瀬氏は、NFT電子書籍ならではの展開として「一万ページの注釈を付けるなど、物理的な制約を超えたコンテンツも作れる」とその可能性について言及。新名氏は「マルチエンディングのストーリーにして、二次流通ですべてを読ませるなどの展開もできる」、山口氏は「どのエンディングに当たるかわからないという“ガチャ”にもできる」と、自身のアイデアを披露した。また、山口氏はChatGPTに「NFT化された電子書籍のメリットは?」と質問したところ、やはり「二次流通市場の活性化」という回答があったことを明かし、「古本屋くらいの市場規模になれば、どんどん動き出す可能性がある」と期待を寄せた。
早川書房とメディアドゥがひらいた「未知への扉」は、出版界にとってどのような変化をもたらすのか。注目したい。