『ブルーロック』馬狼照英はもう一人の主人公? 物語のコンセプトを体現する“キング・オブ・ヒール”の魅力

 「週刊少年マガジン」(講談社)で好評連載中で、5月17日に最新のコミックス24巻が発売された“史上最もイカれたサッカー漫画”こと『ブルーロック』(原作:金城宗幸/漫画:ノ村優介)。日本をW杯優勝に導く世界一のストライカーの育成を目的とした「ブルーロック(青い監獄)プロジェクト」を描き、それぞれに個性的なキャラクターたちが人気を広げてきた。

 最新の展開につき具体的なネタバレは控えるが、現在、連載のなかでフォーカスされているキャラクターが「馬狼照英」だ。ブルーロックプロジェクトは他人にゴールを譲らない“エゴ”をひとつの前提としており、「王様(キング)」を自称し、全てを自分中心で考える馬狼はそれを体現するキャラクターだと言える。“アザーサイドの主人公”とも言える存在感で、彼に注目すると作品の見え方も変わってくるかもしれない。

 本作の主人公・潔世一の前に立ちはだかるライバルは多いが、馬狼ほど好対照な性質を持った“ダークヒーロー”はいない。“エゴ”をうまく育てながら、基本的には協調性のある潔に対し、辛酸をなめることになっても、「自分がルール」であり、周囲の選手を完全な脇役とする強固なエゴイズムは揺るがない。角が取れて成長していくのではなく、さらに尖っていく馬狼は、その言動の是非はさておき「こんなフォワードがいたらどれだけ頼りになるか」と思わされるプレイヤーだ。

 「決定力不足」は、日本サッカー界の課題として長く語られ続けてきた言葉だ。その原因もさまざまに分析されてきたが、日本人の協調性/譲り合いの精神という美徳が影響していると言われることも多い。いわゆる「マリーシア」(ずる賢さ)がない、という指摘はスポーツマンシップの裏返しであり、胸を張るべきところもあるように思うが、「一人で状況を打開し、何が何でも自分でゴールを奪ってくる」という選手が生まれづらい環境だったのはどうやら間違いなさそうだ。

 “エゴ”を強調した『ブルーロック』という作品自体、そうした前提からスタートしている節があり、往年のサッカーファンのフラストレーションが形を成したのが、馬狼照英というキャラクターに思える。「悪役王/キング・オブ・ヒール」という異名や、名前の響きからも、イタリア代表の“悪童”マリオ・バロテッリがモデルと見られる馬狼は、ビッグマウスにふさわしい強靭な肉体と高い精度のキックを誇り、カリスマ性を備えロマンを感じる選手だ。

 漫画大国・日本においては、『キャプテン翼』の主人公・大空翼の影響でミッドフィールダーに優れた選手が多く輩出されてきたーーという話がまことしやかに語られているが、馬狼を含む強烈な点取り屋が活躍する『ブルーロック』を読んで育った世代から世界を席巻する“エゴい”フォワードが登場するだろうか。そんなことも楽しみにしつつ、連載を追いかけたい。

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