『ドラゴンボール』 独特な擬音「BAKOOOOOM!」「BTHOOOOM!」……中盤からなぜなくなった
鳥山明の名作『ドラゴンボール』は、物語が進むにつれて大きく作風が変わっている。初期はギャグ色がかなり強かったがピッコロ大魔王が登場したあたりからはシリアス路線になり、中期でサイヤ人編が始まると本格的なバトル漫画となり、ギャグ色はほとんどなくなった。
そうしたシリアス・バトル路線はセル編まで続いていたが、魔人ブウ編ではところどころにギャグが見られるようになり、初期の鳥山らしさが表れるようになった。フュージョンなどはポーズも含めてギャグ全開だし、孫悟飯はグレートサイヤマンで完全にキャラ崩壊してしまった。こうした路線変更は、ミスター・サタンのようなコミカルなキャラが頻出するようになった影響もあるかもしれない。
そんな『ドラゴンボール』だが、初期に多く見られたのに、中盤以降にほとんど見られなくなったものがある。それは、鳥山明独特の擬音である。
敵と戦ったり、地面に激突したりするときに見られた「BAKOOOOOM!」「BTHOOOOM!」などの迫力ある音。もしくは、ホイポイカプセルを投げたときによく使われた「BOMB!」などの音。鳥山明が『Dr.スランプ』の時代から描き続けているインパクト抜群の擬音で、そのまるっこくて味わい深い書体も合わせて鳥山の作風の特徴になっていた。
それがめっきり、ピッコロ大魔王編以降は見られなくなってしまったのである。セル編では、トランクスがタイムマシンをカプセルに戻すときに「BUN!」という擬音が久しぶりに見られたが、それ以降はほぼ出ていない(あったらぜひコメントで教えて欲しい)はずだ。ギャグが見られるようになった魔人ブウ編でも、登場していないか、ほぼ出ていないはずである。
これは作風の変化と如実に結びついている。『Dr.スランプ』の作風を受け継ぐギャグ路線の初期は、コミカルな印象でまるっこい書体の擬音が効果的だったのだが、シリアスな展開になると作風に合わなくなってきたのだ。そのかわり、カタカナの擬音が増え、その書体もまるっこいものから角ばったり、尖った書体のものが多くなっていった。
こうした擬音ひとつを見ても、鳥山明が作品の展開に合わせて試行錯誤をしながら絵柄を模索していったことがわかる。
そして、鳥山は擬音も含めて、漫画をしっかり絵として見せるのが上手い。ページをめくるたびにこれほどハラハラドキドキな気分を楽しませてくれる漫画家は、鳥山が唯一無二の存在であろう。鳥山が漫画界に残した偉大な足跡を、改めて実感させられてしまう。