川上未映子『黄色い家』など注目作が続々 「闇バイト」の実態を知るための3冊

 大規模な特殊詐欺の実態が明らかになりつつある「ルフィ事件」や、高校生を含む16~19歳の少年が銀座の高級時計ロレックス専門店を襲った強盗事件など、社会問題として注目を集めている「闇バイト」。出版界でも、闇バイトがテーマの書籍が相次いで刊行されている。本項では、闇バイトの実態を知るための一端になりそうな書籍を3冊、紹介したい。

川上未映子『黄色い家』(中央公論新社)

 2019年に刊行された長編小説『夏物語』が、ニューヨーク・タイムズを始めとした欧米各誌紙で絶賛されるなど、世界的に注目を集める作家となった川上未映子の最新作。1990年代後半を舞台に、15歳の少女・花がスナックで働く母の友人・黄美子と出会い、いつしか生きていくためにカード犯罪の出し子というシノギに手を染める様を描いた作品だ。

 主人公の花は、決して自己主張が強いタイプではなく、恋愛にもお洒落にも興味がない。バイトで貯めたお金で母の元から自立することだけを目標としていたが、あるトラブルから家出を決意し、黄美子とともにスナックで働くことになる。黄美子や友人との生活を守りたい一心で、花がカード犯罪に手を染めるまでの過程は生々しく、共感を誘うが、川上は「社会的な問題、顔が見えない犯罪、連帯の暗部とか、切り口みたいなのってたくさんあると思うけど、でも、それよりも、金、家、犯罪、それらが絡みあったときのカーニバル的な祝祭感、そういう、人間のどうしようもないエネルギーを物語にしたかった」と明かしている。(参考:川上未映子の新境地『黄色い家』インタビュー 「人間のどうしようもないエネルギーを物語にしたかった」

 あくまでも文学作品であり、問題提起を目的として書かれた作品ではないものの、相次ぐ「闇バイト」関連のニュースに触れるとき、犯人たちの背景にある人生を想像してしまう物語でもある。

佐々木成三『元捜査一課刑事が明かす手口 スマホで子どもが騙される』(青春出版社)

 ロレックス専門店強盗事件が、未成年者による犯行だったことが世間に衝撃を与えているが、その実態を知るためのテキストとしておすすめなのが本書だ。元捜査一課刑事でデジタル操作班長として活躍してきた佐々木成三が、闇バイトの手口を詳細に明かした一冊。

 犯罪組織は、SNSで「RT(リツイート)したら1万円プレゼント」や「フォローしてくれたら100万円ゲットチャレンジ」などの文言で若者を誘い出し、身分証などの情報をおさえて逃れられないようにして、犯行を強要しているのだ。騙されたとしても犯罪行為に加担すれば、無実となる訳ではない。ロレックス専門店強盗事件の賠償金は億を超えるとも言われている。子どもにスマホを持たせている親は、こうしたリスクがあることを把握しておく必要があるだろう。

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