『機動戦士ガンダム 水星の魔女』15話がつらすぎる……モビルスーツ産業の闇と、見届けたいグエルくんの今後

 大混乱だった前回に続き、その大混乱の余波が地球で活動する「フォルドの夜明け」にもたらした影響を描いた第15話。今回も大変つらい回でありました。

 便所に拘束されて無理やり食糧を口に突っ込まれるグエル、作戦の漏洩とソフィの死の怒りをノレアから(物理的に)ぶつけられるニカ、地球での「フォルドの夜明け」対ベネリットグループ地球駐留部隊との戦闘、そしてグエルの新たな決意……。15話も盛り沢山な内容だったが、スレッタや地球寮メンバーの出番は一切なし。主人公だろうが出さないとなったら一切出さないという振り切ったバランス感覚が、『水星の魔女』の持ち味である。今までのガンダムシリーズだったら毎回のノルマに近かったモビルスーツ戦すら、3回に1回程度だったもんな……。もっとも、どうやらスレッタには物理的な父親はいなさそう(多分)なので、『父と子と』というサブタイトルの回では出番がないのも納得である。

 代わって登場するのが、複数の父子関係だ。「父を殺してしまった子」であるグエルを筆頭に、「子を失った父」であるオルコット、「父を失った子」であるシーシア、そして上下関係が大きく入れ替わろうとしているシャディクとサリウスと、タイトルの通りいくつもの父と子の関係が重ね合わされる。

 グエルは現在、どん底まで落ちた状態である。学園での決闘で敗北し、ジェターク寮を追い出されるように出て、さらには学園からも姿を消し、バイト中に戦闘に巻き込まれて父親を殺してしまった。

 当初はアメリカのハイスクールものでいう"ジョックス"的キャラクターとして登場したものの、グエルはそもそも巨大兵器メーカーの御曹司というボンボン育ちである。決闘にしても一時は「お父さんに止められてるから」みたいな理由で避けていたし、基本的には父親の言うことを黙って聞いているだけの少年だった。素直で普通なティーンエイジャーだったのだ。

 それが第一話でスレッタに敗北したのをきっかけに、文字通りどん底まで落ちた。おまけに今回の劇中のセリフによれば、どうやら実家の家業も相当傾いているらしい。そんな彼が、この15話でとうとう再起に向けて決意を固める。その決心に至るまでの過程も壮絶で、「ここまでやられたら、そりゃ人が変わったようにもなるわな……」という納得感があった。

 グエルの物語は、ここまで見た限りではけっこう古典的な貴種流離譚に見える。「高貴な生まれの主人公が低い立場まで落ち、苦難の冒険を経て失った自分の立場を回復する」というストーリーは世界各地に存在しており、一種の類型として普遍性を持っている。言ってしまえば、ベタである。

 そんなベタなストーリーを、本筋の横で展開するあたりが『水星の魔女』の器用さだ。女性キャラクター2人が、自分達にかけられた「呪い」に立ち向かうストーリーを本筋として展開し、その横で古典的なヒーローズ・ジャーニーを語るというのは、作劇として極めて妥当かつ贅沢である。現代的なヒロインたちによるモダンなメインストーリーと、ガチガチの悪しき体育会系男子がどん底から再起する古典的なサブストーリー、両者が並走して絡み合うような複雑で重層的な物語を、まさか『ガンダム』という老舗ロボットアニメシリーズで見られるとは思わなかった。

 作中の根幹に関わる設定が小出しにされるのも『水星の魔女』の特徴だが、今回はシャディクとサリウスの会話の中でいくつか気になる設定が明らかになった。特に「なんだそれ?」となったのが、「戦争シェアリング」である。

 どうやら現在、地球上では巨大軍需企業が戦争をシェアして管理し、そこに自社の兵器を投入することで資金を得て、宇宙開発事業を展開しているということのよう。しかし、この方法で企業が利益を得るには、絶え間ない地球での戦争という大きな犠牲が必要となる。シャディクの狙いはベネリットグループの資産を地球へ売却して地球側の戦力・資産を大きく底上げし、アーシアンとスペーシアンの間に軍事的均衡を発生させることで、抑止のための兵器の需要を成立させて莫大な資金を得る……ということのようだ。

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