江口寿史 展覧会「東京彼女」レポート “街“と“時代“を“ポップ“に切り取るアーティストとしての本質

 現在、東京ミッドタウン日比谷(6F BASE Q HALL)にて、江口寿史のイラストレーション展「東京彼女」が開催中である(4月23日まで)。

 江口は、『すすめ!! パイレーツ』、『ストップ!! ひばりくん!』などのヒット作で知られる漫画家だが、その一方で、ポップな作風のイラストレーターとしても人気が高く、同展では、そんな彼の膨大なイラストレーションの中から、「街(=東京)」と「女性(=彼女)」に焦点を当てた作品が集められている(同展のための描き下ろし作品もアリ)。

“街”の姿と“時代”を切り取るアーティスト

 そもそも江口といえば、漫画作品においても、「街」を重要なモチーフとして描いてきた作家である。「街」というものは、知らない者同士が集まり、出会い、そして、偶然のドラマを生み出すための装置であり、刻一刻とその姿を変貌させている。

 江口は、イラストレーション作品においても、そんな実在の「街」の姿を美しい女性たちの背景として描きとどめており、それは、「彼女」らのリアルなメイクやファッションとともに、(写真や映像とはひと味違う)ある種の生々しい時代の“記録”にもなっているのだ。
 これはもはや、竹久夢二や鏑木清方、あるいは、葛飾北斎や喜多川歌麿らと同等の仕事をしている、といってもいいかもしれない。

注目すべきはパントーン作品

 ところで、いまイラストレーターを志している若い人の多くは、PCを使って作画していることだろうが、そういう人たちにこそ、同展で展示されている、80年代のパントーン(=色のついたスクリーントーンを想像されたい)を駆使した作品を見てほしいと思う。これは、同じ“パントーン使い”であるイラストレーター・鈴木英人に“共鳴”したものであると同時に、新しい“絵”や“色”の可能性を求めた開拓精神の表われでもあったはずだ(そうした絵描きとしての貪欲さはいまもまったく失われてはおらず、現在の江口はPCの作画ソフトを積極的に仕事に取り入れている)。

江口寿史が描くギターが象徴するもの

 個人的には、「音楽」をテーマにしたイラストレーションの数々に惹かれた。とりわけ、「ギターと女性」を描いた作品群のなんと素晴らしいことか。あらためていうまでもなく、ギターのボディは艶かしい女性の身体のラインを想起させるものであり、そういう意味では、他の絵よりも数段色気が増しているとさえいえよう。

 また、それと同時に、ギターとは、「彼女」たちがたった1人で世界と立ち向かうための“武器”の象徴でもある。だから江口が描くギター少女の多くは、強い視線でこちらを睨みつけているのかもしれない。

 いずれにせよ、展示作品の数もさることながら、東京ミッドタウン日比谷というオシャレな“場”の雰囲気もあいまって、同展は、江口寿史が本質的に持っている、極めて都会的でポップなセンスを最大限に引き出せているといえるだろう。何かと、締切を守らないだの、原稿を落とすだのといわれがちな作家ではあるが、彼が時代を代表するアーティストの1人であることは間違いない。

 江口寿史という偉大なアーティストの仕事をリアルタイムで見られる悦びを、いまはじっくりと噛み締めていたいと思う。

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