【漫画】『家族対抗殺戮合戦』はセンセーショナルなだけじゃない! 現代ホラーの鬼才が描く電子コミックの隠れた名作

 『家族対抗殺戮合戦』ーーまだ読んでいない人は、このタイトルを見て、どんなバトルロワイヤルが繰り広げられるのかどきどきするだろう。

 作者は『走馬灯株式会社』の菅原敬太で、現在、電子コミック界におけるホラーの名手だと私は思っている。彼の描いた漫画は結末までの完成度が非常に高いのだ。

 謎の存在「鉄民」が主人公の住む島の一部に存在している『鉄民』、ある日突然、空と大地を逆さになってしまう『隣町のカタストロフ』など、理不尽に主人公の日常が壊されたところから始まる物語が多い。

 菅原敬太の最新作が『家族対抗殺戮合戦』であり、今年、とうとう完結した。誰も予想できなかった息をのむ最終回だった。試し読みしたい人はピッコマなどで最初の数話が無料で読める。

 概要を説明しながら『家族対抗殺戮合戦』の魅力を紹介したい。

日常が崩れサバイバルが始まる

 その日、鞠山家はいつもどおりの朝を迎えた。

 主人公の雅彦は、家族に怒鳴られたり疎まれたりしている、どこにでもいるサラリーマンである。その日もいつもどおり出勤するためのバスを待っていると、大きなぬいぐるみが三体通りかかる。バスはなかなか来ず、住人たちの姿も見えない。

 そんな中、町のアナウンスで公園に集まるように声がかかる。行かなければなにもわからないと、雅彦は家族と共に出かける。公園には7つの家族がいた。これから始まる、家族対抗の殺戮合戦のことも知らずに。

 「せいらちゃん」というぬいぐるみの女の子が現れ、ぬいぐるみたちは逆らう人物には容赦なく手を下し、公園は地獄絵図と化す。ぬいぐるみたちは怪物のような存在だったのだ。

 いつもの日常、いつもの町に戻れるのは1家族だけと言われた彼らは、せいらちゃんの命じるとおりに勝ち負けの決まるゲームをする。すべてのゲームに、1週間以内に負けたチームの家族からひとり、生贄を出さなければならないという恐ろしいルールがあった。

 この厳格なルールは最後まで破られることがない。

 ゲーム以外での殺し合いも許され、家庭内の歪みが表出する家族、直前になって子どもを生贄に差し出す家族、そして鞠山家のように家族の絆が強まる家族……それぞれの家族としての個性を発揮しながら彼らは殺戮合戦で戦う羽目になる。

 平和な日常は一瞬にして崩壊したのだ。

極限状態における「おじさん」の覚醒

 本作の見どころはサバイバルにある。しかしそれだけではない。主人公である雅彦が、大切な家族や友人を守るために覚醒していく姿は、もはやぽっちゃりとしたどこにでもいるおじさんに見えない。家族や親友一家も雅彦を信頼するようになっていくのだ。

 一方で雅彦と敵対する人も出てきて、個人対個人の殺し合いも始まる。極限に追い込まれたとき、人間がどうなるかを描写してもいるのだ。

 通常のホラー漫画なら本作を10代、もしくは20代を主人公にした漫画にして、若者の視点から家族同士のサバイバルを描写するだろう。

 しかし雅彦を主人公にしたことで私たちは本作を俯瞰して見ることができ、またいつのまにか雅彦に感情移入をしている自分に気づく。

 作者のTwitterを見ると、初期設定の主人公は雅彦ではなかったようだが、どこにでもいるサラリーマンのおじさんを主人公にしたのは成功だった。大人になってからの雅彦の成長、大切な人たちを守るための覚悟、内に秘めていた強さがありありとわかり、ホラー漫画でありながら私たちが勇気づけられる場面もたくさんある。

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