『疾風伝説 特攻の拓』所十三、いまだから話せる伝説的暴走族漫画の創作秘話
1990年代の「週刊少年マガジン」。私は、熱烈な読者の一人だったが、当時は「週刊少年ジャンプ」「週刊少年サンデー」などあらゆる少年漫画雑誌に不良漫画や暴走族漫画が掲載されていたものだった。
そして現在、暴走族漫画が再びブームになっている。90年代と比べると暴走族の数は激減、もはや昭和レトロとして扱われるようになっているにも関わらず、若い読者も多いと聞く。なぜ、暴走族漫画は世代を超えて人を引き付けるのだろうか。
漫画家の所十三は、『疾風伝説 特攻の拓』から『ドルフィン』まで、数々の暴走族漫画の名作を世に送り出してきた。約38年に渡り、第一線で現在も作品を発表し続ける所に、暴走族漫画の今昔について話を聞いた。
暴走族漫画はファンタジーの世界だった!?
――1980~90年代に暴走族漫画が人気を博した要因はどこにあると、お考えでしょうか。
所:『特攻の拓』を描いていた1990年代って、時代でいえば少年犯罪は減少傾向にあったし、暴走族もどんどん解散していった時期ですよね。だからこそ……だと私は思っています。暴走族の世界が身近なものじゃなくて、ある種のファンタジーとして楽しめるようになったからこそのブームだったんじゃないか? って。
――そうなんですか! 暴走族が社会現象になっていた影響で、漫画も売れていたんだと思っていました。
所:暴走族が流行っていたから暴走族漫画も売れたって話じゃないんですよ。ヤクザ映画とかも、警察の取り締まりが厳しくなって暴力団が市民生活から隔絶していったからこそ、義理と人情の任侠映画みたいなファンタジーが生まれたんだと思っています。
――任侠ものの漫画は令和の時代も健在ですし、人気作品も多いですね。
所:漫画はファンタジーとして楽しむものだと思っているので。最近はラブコメが主流だと聞いたとき、もしかして若い子にとって恋愛が現実的ではないファンタジーになりつつあるのか? なんて想像しちゃいました(笑)。
――『特攻の拓』の読者層は、実際の暴走族や不良ではなく、一般的な学生や子どもも多かったのでしょうか。
所:恐竜漫画を描いていたとき、真面目な学者先生やら研究者さんやら高学歴の皆さんにも『特攻の拓』が読まれていたことを知りました。暴走族とは無縁な読者がたくさんいたんだって。女の子からのファンレターもたくさんいただきましたし。もちろんヤンチャな子たちも愛読してくれていたと思いますが、それだけじゃブームにはならないんですよね。一巻あたり100万部売れるってことは、ファンタジーとして楽しんでくれた読者がたくさんいたってことだと思います。
――『東京卍リベンジャーズ』もファンタジーのような読まれ方をしているのかもしれませんね。
所:だと思いますよ。今は暴走族の数は90年代よりさらに減ってしまいました。だから、暴走族漫画を自分とはかけ離れた世界として、楽しめているのだと思います。
キャラ作りの参考にしていたのは、あの雑誌!
――『特攻の拓』は喧嘩のシーンなど、リアルな描写がたくさんあります。執筆にあたり、所先生は暴走族や不良に取材しているのでしょうか。
所:いえ。それはしていません。背景を描くために横浜の風景はいろいろ撮影しましたが……。あと、世田谷のバイク屋さんでバイクを撮らせて貰ったことはあります。旧車ブームが始まった頃で、一昔前の名車が店頭に並んでいたんで。FOUR(編集部注:1974年にホンダが発売した名車DREAM CB400FOUR)のおなかも見せてもらえたんですよね。
――それは羨ましい!! マー坊(鮎川真里)君の愛車ですね!
所:今じゃだいぶ高くなっちゃったけれど、当時は普通にきれいな中古車があったんですよ。
――個性的なキャラクターはどのようにデザインしたのですか?
所:それはね。実は「チャンプロード」(編集部注:笠倉出版社がかつて発行していた暴走族雑誌)に載っていた暴走族の写真を参考にしたんですよ。(一条)武丸くんも、原作の佐木飛朗斗さんが「チャンプロード」に載っていた子を指定してきて、リーゼントの髪型もその子の雰囲気をアレンジしながら描きました。(榊)龍也くんのモデルの子も、あんな感じの面長の顔立ちで、凄くカッコよかった記憶がありますね。「チャンプロード」を立ち上げたライターが、今『ドルフィン』で一緒に仕事をしている岩橋健一郎くんです。『特攻の拓』のキャラができたのは、当時の岩橋くんの仕事のおかげですよ(笑)。
――暴走族といえばカラフルで装飾的な単車のイメージがありますが、髪型やファッションも漫画並みにユニークだったんですね。
所:『特攻の拓』を描いていた頃は、ヤンチャな子たちの髪型も多彩になっていった時期なんですが、岩橋くんの現役時代(80年代)はチャラい髪型していると笑われたみたいですね。90年代の「チャンプロード」には長いさらさらヘアの子も載っていたし、来栖(奈緒巳)くんみたいな女の子っぽい感じの子もいたんですよ。あと、『特攻の拓』の場合、佐木さんが音楽に造詣が深かったので、ミュージシャンのイメージが投影されている部分もあると思います。天羽(時貞)くんのビジュアルなんか、まさにそうですよね。