『SLAM DUNK』は不良漫画だった? 連載直前の読切作品『赤が好き』で描かれた“別の世界線の桜木花道”

 アニメーション映画『THE FIRST SLAM DUNK』の大ヒットが続いている。3月21日に行われた声出し&歓声ありの「応援上映」も好評を博し、4月2日に全国の劇場で追加開催されることが決定。まさに国民的一作となった。

 映画が宮城リョータ視点の物語になることが決定的になったとき、原作ファンの間では井上雄彦の“幻の読切作品”であり、今作でも設定の一部が流用された『ピアス』の存在が話題になった。映画公式本『THE FIRST SLAM DUNK re:SOURCE』にも収録されており、映画をきっかけに『SLAM DUNK』を深掘りする中で出会った人も多そうだが、ファンなら押さえておきたい読切作品はまだある。「流川楓」を主人公に据えたバスケットボール漫画『楓パープル』(初出は1988年の「週刊少年ジャンプ」)と、1990年8月1日に発売された「週刊少年ジャンプ増刊 1990年 Summer Special」に掲載された『赤が好き』だ。

 『楓パープル』については、当サイト記事「『SLAM DUNK』の主人公は流川楓だった? 井上雄彦の漫画家デビュー作『楓パープル』に見る“名作の原型”」に詳しい。この時点で、流川の「クールなイケメンでバスケの高いスキルと情熱を持っている」というキャラクターはほぼ出来上がっており、いくつかの設定が『SLAM DUNK』に活かされている。そして、『赤が好き』は桜木花道、赤木晴子(※本作では大咲晴子)、水戸洋平をはじめとする桜木軍団のビジュアルはほぼ完成しており、キャラクターも、不良嫌いでわりと勝気な晴子以外はほとんど違和感がなく仕上がっている。

 いま振り返ると、『赤が好き』はバスケットボールに出合わなかった世界線の桜木花道の物語に思える。電車で晴子に一目惚れした花道。上級生の不良・菊川仙吉(どことなくスラダン的な名前だ)に絡まれているところを男前に救うも、“赤頭”が災いして「ズッコーン」と玉砕。その後、晴子は徐々に桜木の優しさに気づき始めるが、そんななか、逆恨みした菊川の魔の手が迫り……という、いわば『ろくでなしBLUES』的な不良漫画になっている。

 この世界線でも、桜木花道は魅力的だ。明るく豪快で、頭は決してよくないが心は熱く、なぜか人を惹きつける力がある。『SLAM DUNK』でバスケに出会えてよかったな……と思う一方で、『赤が好き』でも機転の利く好き相棒・水戸洋平が側にいるので、そんなに悪いことにはならなそうな気もする。花道はスポーツ漫画でも、不良漫画でも、ギャグ漫画や恋愛漫画でも、主人公になってしまうキャラクターなのだろう。

 昨今の人気作はスピンオフが量産され、作品の魅力をより立体的にしているが、『SLAM DUNK』にはそれがない(『ピアス』も正式なスピンオフではない)。その潔さと完成度も本作の魅力だが、もし作品世界を拡張する想像を広げたい人は、『楓パープル』や『赤が好き』の掲載誌を探してみてはいかがだろう。

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