橘ケンチ、日本酒500本テイスティングに挑戦した理由 「圧倒的な情報量の書籍にしたかった」

色々な角度から「日本」が見えてくるのも、日本酒を深める面白味のひとつ


――日本酒の定義が法律で細かく規定されていることも解説してあり勉強になりました。

橘:太平洋戦争期くらいまでは日本酒への税金が国の財政を大きく担っていました。時代が変わって今はそうでもないですが、現在もその流れで法律には厳しいところが残っているようです。食文化、税金、農業など様々な角度から「日本」が見えてくるのも、日本酒を深める面白味のひとつなんです。

――本作に収録されている、新政酒造の社長・佐藤祐輔さんのインタビューには「橘さんの日本酒愛を感じた」というようなエピソードが語られていたのも印象的でした。

橘:ありがとうございます。酒蔵についていうと、本著に掲載されている萬乗醸造・久野九平治さんの記事には、彼が兵庫県に新たな蔵を作られていることも書いてあって、その全容は今回が初出しです。もともとは名古屋が拠点の蔵なのですが、彼が勉強のためにヨーロッパのワイナリーを巡っていたとき「どんな米を使っているんだ?」とよく質問されて、答えられなかった体験があるらしいんです。というのも、日本酒は春夏で農家さんが作った米を酒屋に渡して仕込む分業制なのに対し、ワインはぶどう農家が全行程を担当するからなんですね。久野さんが当時やっていたのは酒の醸造のみだったので、米に関しては答えられなかったと。

 それで彼は10年以上前、一念発起して自前の米作りを始めたんです。そのための新たな拠点が山田錦の生産地である兵庫・黒田庄町。それから、だんだんと「田んぼのなかで酒を造りたい」という気持ちが生まれてきたそうで、彼は「農と醸」を一体化するエリアも作りました。海外のワイナリーも参考にされていることもあってか、それが今までの日本酒の蔵にはないカッコよさなんですよ。

 ただ久野さんもそれを公にするタイミングについて慎重だったんです。でも僕は「日本で一番カッコいい蔵はここしかない」と思っていたので、この本のなかで紹介したいと打診しました。そこで快諾をいただき、今回の初出しに至ったんです。これを特集できたのは本当にありがたいことですね。

――もはや日本酒ジャーナリストのような存在になっていますね。あと蔵見学のマナーで「事前に納豆を食べない」という項目があったのも驚きでした。

橘:日本酒は繊細です。乳酸菌や酵母菌、麹菌などの営みによるミクロな世界で生み出されているので、汚い場所だと上手く造れません。「酒蔵の仕事の半分以上は掃除」と言う方もいるくらいです。特に納豆菌は強いので、それが入ると蔵の酒が全部ダメになってしまうこともあるそうなんですね。だからキムチやヨーグルトなどは蔵見学の前に食べない方がいいと言われています。気にしない場所もあるそうですが、造り手をリスペクトするためにも知識として知っておいた方がいいかなと思って書きました。

――最後に日本酒プロジェクトの今後の展望などがあれば教えてください。

橘:日本酒に携わってきて、この本が現在の集大成のような感覚ですね。僕にとって日本酒は地域のシンボルであり、その土地のさまざまな魅力を繋ぐハブなんです。滋賀の蔵元さんとお酒を飲むなら、現地のレストランに行って、美味しい肉や魚が調理されて……と。それを繋いでいるのが日本酒だなと。だから日本酒を起点に地域全体を盛り上げたり、応援できればいいですね。

 思えば、福井市食のPR大使への就任も日本酒がきっかけでした。そのご縁で2021年のツアー『EXILE LIVE TOUR 2021“RED PHOENIX”』の初日に訪れたときも手厚く歓迎していただいて、かなり良いスタートを切ることができたんです。個人での活動とグループでの活動が合わさることで、こんなに爆発力を生むんだと驚きでした。

 だから自分が日本酒のプロジェクトで各地域を巡っているのは、導火線を設置しているようなイメージですね。そこにEXILEとして行ったときに着火していく。それによってグループとして掲げる「日本を元気に」というテーマがさらに前進するんじゃないかなと。今後も地域創生とエンタテインメントが共存していくような取り組みを生み出していきたいです。

【EXILE橘ケンチのSAKE JAPAN】裏側大公開!『橘ケンチの日本酒最強バイブル』

■書籍情報
『橘ケンチの日本酒最強バイブル』
橘ケンチ 著
発売日:1月27日
価格:1,980円(税込)
出版社:宝島社

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