『THE FIRST SLAM DUNK』原作読むべき問題 賛否両論の映画観賞後に再読したら感極まった
スポーツ漫画の金字塔『SLAM DUNK』(井上雄彦)の「新装再編版 全20巻 新品セット」が、amazonの売れ筋ランキング(和書総合)で上位をキープし続けている。12月9日現在は8位にランクインしているが、その他は単行本や雑誌の新刊が並んでおり、旧作かつ全20巻・1万3255円の商品がこの位置にいるのは極めて珍しい。シリーズ累計発行部数は1億2000万部以上で、「コミックスをすでに所有している」人の多さを考えると、デジタル化されていないことを差し引いても驚くべきことだ。
この売り上げは当然、12月3日公開のアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』のヒットと重なるものだろう。映画を観る前の「予習」として購入した新規の読者もいれば、「復習」のために買い直したファンもいるだろうし、映画を観た後、原作が読みたくなった観客も多かったはずだ。年末年始の休みが迫っており、時間がとりやすい時期なのも影響しているかもしれない。いずれにしても、映画に満足した人だけでなく、そうでなかった人も、ここで原作を読み直すことをお勧めしたい。
筆者も「全巻セット」ではないものの、映画の公開前後で新装再編版を購入し、何十回目かの再読している。「第一部完」という思わせぶりな連載終了だったこともあり、続編やスピンオフを含む「作品世界の更新」が求められ続けてきた『SLAM DUNK』。映画が原作を貫くムードとは違う趣きの作品だったことも売り上げに貢献していると考えられるが、賛否両論ありながら、映画版では既存のストーリーに新しい視点/解釈が生まれたことで、原作を新鮮に楽しむことができている。
細かなネタバレは控えるが、すでに多くのメディアが報じているように、『THE FIRST SLAM DUNK』では原作のクライマックスとなる「インターハイ・山王工業戦」が描かれた。ファンなら全ての場面をつぶさに記憶している人も多いと思うが、映画観賞後あらためて原作に戻ってみると、省略されたシーンや強調されたシーン、また別アングルで映されていたシーンなどがわかって面白い。
また、選手の動きから細かな音まで、試合が極めてリアルに描写された映画だっただけに、制作陣の優れた仕事とともに、「漫画表現の素晴らしさ」もあらためて感じることができる。リアリティを追求するとどうしても抜け落ちる演出ーー主に「時間の流れ」の緩急が素晴らしいと思う。ひとつのシーンを多アングルでリプレイするように描く強調表現もそうだ。実際の試合は一息つく間もなく動き続けるもので、だからこそひとつのプレーを印象づけ、意味を持たせるためには「回想」という場面転換が必要だったのだろう。原作を再読したことで、映画で「あの試合をリアルに体感できた」ことのありがたみが増した。原作も映画もテレビアニメも、それぞれのよさがある。
それにしても、連載時から『SLAM DUNK』を追いかけ、単行本、完全版、新装再編版と、何度買い直しただろうか。いい加減、デジタル版も出してほしい……という気持ちもあるが、それでも生活環境が変わったり、新形態で本が出るたびに書店に足を運ぶのだろう。必要経費と割り切りつつ、『SLAM DUNK』の世界を更新する新作にまた出会えることに淡く期待しようと思う。