荒川弘『百姓貴族』アニメ化決定 農家エッセイ・コミックはなぜここまでウケたのか

 荒川弘の『百姓貴族』のアニメ化が決定となり話題となっている。荒川弘といえば、北海道の農業高等学校を舞台とした学園漫画である『銀の匙 Silver Spoon』(小学館)、ダークファンタジーコミックの傑作である『鋼の錬金術師』(スクウェア・エニックス)、田中芳樹のファンタジー小説を原作とした『アルスラーン戦記』(講談社/別冊少年マガジン連載中)など、数多くの人気作を手がけてきた漫画家だ。

 荒川弘は、マンガ家になる前に北海道で7年間酪農と畑作農業に従事しており、その際に漫画賞を受賞し99年に漫画家デビューをしている。農業については、喜怒哀楽を知り尽くしているといっても過言ではない荒川が、日本の酪農業の厳しい現実を捉えつつも、タフでパワフルな生き様を爆笑エピソードと共に披露しているのが、農家エッセイ・コミック『百姓貴族』である。

 『百姓貴族』は、隔月刊コミック誌『ウィングス』にて連載中で、単行本は累計300万部を突破し、現在7巻(2022年10月現在)まで発売されている人気作品だ。

 『百姓貴族』の魅力は、タイトル通り、実は現代の貴族(金銭的な部分だけではなく)のような生活を送っているのが農業に従事している人だと描いている点だろう。登場するのは、荒川とその家族。それに編集者のイシイさん。農家に従事しないからこそのツッコミを入れるような体裁として物語は進む。北海道の実家での体験、上京してから感じた非農家とのギャップを『荒川調べ』によりリアルに描かれる農家エッセイだ。

 『銀の匙 Silver Spoon』を読んだことがあれば、『百姓貴族』との共通項も見出すことができるような内容なので、『銀の匙』ファンにとっては、あのエピソードを思い出すことがあるかもしれないし、未読だとしても、非農家であるイシイさんが我々の代弁者となり、農家あるあるにツッコミを入れてくれ、徐々にイシイさんが農家に馴染んでいく姿が読んでいて面白い。

 本書で興味深いのは、農家の経済や食、ライフスタイルのエピソードがリアルに描かれている点だ。北海道の農家は、貴族のような生活だと膝を打つこともあるだろう。

 そんな『百姓貴族』は、現在、東京農業大学「食と農」の博物館とタイアップした複製原画展「荒川 弘〈百姓貴族〉× TOKYO NODAI 2022」が開催されている。

 2022年10月~12月を前期、2023年1月~3月を後期として、秘蔵コレクションは展示替えがおこなわれます。ほか、『百姓貴族』のマンガをもとにリアル農業の今と未来について大学教員らが解説するパネルや迫力満点の剥製、ドローンやトラクターのミニチュアなど、見逃せない展示が盛りだくさんだ。ぜひアニメ化の前にコミックを読んで展覧会にも足を運んで『百姓貴族』の世界に浸ってみてはいかがだろう。

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