【ドラフト】数々のドラマを引き起こしてきたプロ野球への登竜門 下位指名選手たちとスカウトマンの矜持に迫る書籍と漫画
日本高校野球連盟が2022年7月5日に発表した、部員数調査(2022年5月末現在)の結果によると、硬式部員は13万1259人。全日本大学野球連盟の2022年5月1日の発表では、部員数は2万8769人。ここに社会人野球や独立リーグの選手を合わせるとのべ17万人以上の中からプロに進めるはほんの僅か。2022年では、高校・大学生の中で341名がプロ志願届を提出。ドラフトでは毎年各球団は原則として10名まで指名できるので、約120人がプロへの扉を叩くことができる。全体の部員数の倍率を概算でいうならば約1416倍という非常に狭き門となる。
選手にとって、今後の人生を左右するプロ野球のドラフト会議が2022年10月20日に行われた。これまでにも数々のドラマを生み出してきたドラフトは、選手だけではなく、家族やファン、球団にとっても、非常に重要なイベントであり、近年では、エンタメ的な要素も加わり、ただのイベントというよりフェス的なものになりつつあるが。ここではこれまで多く出版されているドラフトに関連する書籍や漫画の中から下位指名の選手にフォーカスをした作品を紹介していきたい。
ドラフトに指名されずとも這い上がった戦士たち
■田崎健太『ドラガイ』(カンゼン)
ドラガイとはドラフト外で入団した選手のこと。1965年にドラフト制度が導入され、初期のドラフト会議では、選手からの入団拒否や、交渉権を得た球団が放棄することもあり、指名されなかった選手に直接交渉して入団させるいわゆる「ドラフト外入団」が認められていた。
1965年から1992年までにドラフト外入団した選手は663人。2012年には、ドラフト外最後の現役選手だった石井琢朗が現役を引退。ドラフト外入団をした現役選手はいなくなったが、江本孟紀、大野豊、鹿取義隆、西本聖、松沼兄弟、秋山幸二、石毛博史、木村拓也など、プロ野球でレジェンド級に実績を残した選手も多く存在した。
そんなドラガイがどうやってプロ野球界のスターへと駆け上がることができたのか。田崎健太による丹念な取材からドラガイ入団組の過酷さ、厳しさ、成功までを詳らかにする。
「迷惑がかかることはわかっていた。それでもプロへ行きたかった」(石毛博史)、「大したピッチャーじゃなかったから、壁を乗り越えるきっかけを見つける時間があった」(大野豊)など、辛酸を嘗めながらも成功を勝ち取ったレジェンドたちの言葉が響く。
最後に名前を呼ばれた男たちの苦悩や挫折、栄光に迫る
■村瀬秀信『ドラフト最下位』(KADOKAWA)
伊藤拓郎、今野龍太、鈴木駿也、高瀬逸夫、高橋顕法、田畑一也、、長谷川潤、橋本泰由、松下圭太、三輪正義、吉川勝成、由田慎太郎、……。ドラフト最下位で指名をされた16人に迫った書籍が『ドラフト最下位』である。
失礼かもしれないが、列記した選手を全て憶えている、というのはよほどの野球マニアではないだろうか。ドラフト上位指名選手との待遇の違い、雑務をこなさなければならない中での練習。ドラフト最下位には、2000本安打を残した千葉ロッテマリーンズの福浦和也もいた。そんな格差の中でも這い上がったものや、活躍できずに球団を去った者、プロ野球の様々な人生の中でも本書から浮かび上がるのは、プロ野球界に対する悔悟はない。プロ野球というフィールドは人生の縮図。人生において、無駄なことなどない。
下位指名選手で大物を見出す敏腕スカウトマンを描く
■クロマツテツロウ『ドラフトキング』(集英社)
2018年から『グランドジャンプ』(集英社)で連載中の作品。野球選手ではなく、スカウトマンである郷原眼力(ごうはら オーラ)にファーカスをし、プロ野球のスカウト活動やドラフト会議を丹念に描いた異色の作品である。
スカウティングの腕の見せ所なのは、甲子園や六大学などで華々しい活躍をした上位指名が有力視される選手ではなく、下位指名の選手。イチロー、前田智徳、金本知憲はドラフト4位、山本昌広はドラフト5位指名、近年では、ソフトバンクの千賀滉大、甲斐拓也、周東佑京などの育成出身の選手たち。そんな隠れた才能を見いだし、1位指名選手を超えるスター選手を見つけるのがスカウトの腕の見せ所なのだ。そんな選手達に寄り添って原石を見つけ出すプロ野球スカウトの魅力が詰まった作品だ。
タイトルの『ドラフトキング』とは、その年のドラフトで選ばれた選手の中で指名順位とは関係なくナンバーワンの選手のことをいう。「スカウト」の闘いは、すでに始まっている。