善意に見える行動がなぜ? 「ヒカキン動画非公開→ヒカル炎上」の背景を考察

 人気YouTuberのヒカキンが10月2日、賞金つきの大型企画「ヒカキンおにごっこ」の内容に問題があったとして、動画を非公開とし、謝罪をおこなった。「60分間逃げ切ることができたら100万円」という内容で、1000万再生を超える大ヒット動画となっていたが、撮影中のトラブルによる「10分間の延長」が参加メンバーに共有されておらず、「不正疑惑」が持ち上がったという。原因はスタッフ間のすれ違いと見られ、誠実な人柄で知られるヒカキンのこと、細やかな説明と素早い対応に、視聴者は理解を示していた。

 そんななか、なぜか批判を集めてしまったのが、ヒカキンとは対照的な“闇”のイメージを持つヒカルだ。ヒカキンは問題の調査をおこなうきっかけとなった「情報源」として、動画でヒカルの名前を挙げており、そのことが「ヒカルがこの問題の黒幕なのではないか」との憶測を呼んだと見られる。

 これを受け、翌3日にヒカルは「ヒカキン鬼ごっこ非公開の真相について」と題した動画を公開。複数の企画参加者から不正疑惑の告発があり、「ヒカキンさんがそんなリスクを取る理由がない」「全員がいい動画を作ろうとして真剣に臨んだ結果の不幸な事故だ」と考え、穏便に事態を収めるべく、共通の知人を通じてヒカキンに連絡を取ったという。ヒカルは「5年前だったら暴露していたかもしれない」と冗談めかして語っており、「目立つ」ために手段を選ばない、というパブリックイメージもあるが、今回の動画はヒカキンから「飛び火してしまうかもしれない」という趣旨の連絡を受けてから撮影したもので、表立って問題にする気はなかったようだ。ヒカルはリモート会議ツールでヒカキンと直接話をし、参加者からの声を共有するとともに、今後の対応についてのアドバイスを送ったという。

ヒカキン鬼ごっこ非公開の真相について

 YouTuberというシーンでは対立的な構図で語られることが多く、またキャリアもチャンネル登録者数も格上のヒカキンに対し、ヒカルがアドバイスできたのはなぜか。クリーンなヒカキンは炎上経験が少ない一方で、ヒカルは大小さまざまな炎上を経験し、有効な対策を熟知していることが、その理由として挙げられるだろう。

 9月30日に刊行された、ヒカルにとって初の著作となる『心配すんな。全部上手くいく。』(徳間書店)には、SNS時代、いくら注意していても「まさか」の炎上はあるものだという立場から、「とにかく取るべき対応は、一にも二にも、すみやかな謝罪である」「いちばんやってはいけないのは、言い訳だ」と記述されている。そのアドバイスがあってかどうかは定かではないが、ヒカキンは企画参加者のリークに先立って調査を終え、自身に責任があるとして謝罪し、さらにヒカルの想定を超えた「動画の非公開」にまで踏み切り、視聴者の信頼を守った。ヒカルは、自分だったら多くの収益を生む動画を非公開にはしないとして、「筋を通す人」であるヒカキンに対し、素直にリスペクトの気持ちを語っている。

 それでは、なぜ動画企画にも参加していないヒカルに批判が集まり、炎上ともいえる状況になったのか。ヒカルの結論は、おそらく多くの人々が感じているだろう「自分のイメージが悪すぎるから」だ。前出の『心配すんな。全部上手くいく。』では、YouTuberとして頂点を取るため、普通とは逆の発想で「好感度を捨てる」という差別化戦略を取り、露悪的なまでに「綺麗ごとを言わない」ことをブランディングの柱にしてきたことが詳述されている。つまり、ことあるごとに批判を集めることは織り込み済みであり、「正/聖」のイメージがあるヒカキンとは、今後も一定の距離を保っていくと語っていた。

 大金を投じている慈善活動においても、「売名のため」「これで炎上しても許されるやろ」と、冗談めかしてたびたび語っているヒカル。本心がどこにあるのか、書籍に著されているようにすべて戦略なのかわからないが、「自身の利益」という観点で今回の件を見れば、「暴露動画で注目を集めるより、問題が大事化し業界全体が地盤沈下することを回避しようとした」とも受け取れる。

 「とにかく犯人探しはやめてほしい」「『ヒカルが悪い』で終わればいい」と語り、最後は、撮影部屋の背景にある著書にズームする……という掴みどころのなさ。確実に再生数が回る動画を著書の宣伝に利用したのか、書名がヒカキンへのメッセージになっているのか、それとも単に照れ隠しなのか。株を上げてもおかしくないし、物議をかもしてもおかしくないファジーな領域を行くヒカルは、引き続きネットを賑わせそうだ。

■参考
『心配すんな。全部上手くいく。』
著者名:ヒカル
出版社名:徳間書店

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