【漫画】人の家で夜な夜なゲームするエモさと絶妙な距離感に悶える『OLがゲーセンで会ったヤンキー男子高校生に懐かれる話』
「……お前が!!…(中略)…からだろーーがッッ!!!」
ガガガッ!!と、思わずアーケードゲーム機のスティックとボタンに力がこもってしまう。
上司に仕事のことで確認したかったのに、会議室にこもってたまに出てきても即禁煙室に行くか「今から会議だから」とあしらわれる。挙句、「言ってくれればすぐ見たのに」などと言い出す始末。
OLの瀬川ハル(26歳)は趣味&ストレス発散のため、ゲームセンターに通う日々を過ごしていた。あるとき、アーケード型の対戦格闘ゲームで憂さ晴らしをしていると、たまたま向かいに座り対戦した相手をフルボッコにする。相手は金髪で細い眉、黒いマスクをしたガラの悪いヤンキー男子高校生。それ以降ハルがゲーセンに行くたびにヤンキー高校生はなんだかんだと挑んでくる。悔しくて何回も挑戦してくるのだろうか。
その後、仕事が多忙のためにゲーセンに行けなかったハル。ようやく仕事もひと段落し、いつものゲーセンに行ってみると、店外でハルを待つヤンキー男子高校生。まるで尻尾を振ってご主人様を待つ忠犬のようである。なんかかわいい。これだけ懐かれてしまったからにはと、ハルは彼にゲームの手癖についてアドバイスをするも、「(チッ)うっせーよ!オバサンっ」と一喝されてしまう。
ところが翌日ゲーセンへ行ってみると、ちゃっかりアドバイスを聞いて実践しているヤンキー高校生。それを機に、何気ないことを話すようになり、毎日のように顔を合わすことになるのだった。彼の名は高荒。ハルはタカーラ(ピザーラと同じイントネーション)くんと呼ぶようになっていた。
普段全方向に猫をかぶっているハル。タカーラくんとは、本当の自分でいられて楽だと気づく。ハルがゲームが強いから懐いているだけだと思っていたが、2人はゲーセンで会うだけの仲から、ちょっとした勘違いにより週末はハルの家で夜な夜なゲームをする仲まで発展していく。タカーラくんにとっても、ハルはどこか安心できる存在だったのだろう。
最初は強面ヤンキーの印象が強かったタカーラくんだが、ハルとやりとりをしていくうちに素直なところもあるし、照れ隠しできないところもかわいい。健気にゲーセンに通うところも、電車で小さい子どもを連れた親子に席を譲ったり、ちょっと古い言い方だが、ギャップ萌えど真ん中の設定。正直相手は高校生なのにと思っていても心が揺れる。ただしことゲームとなると、手癖で暴れ、我慢できなくて焦ってしまい、動きが予想されるパターンに戻ってきてしまうタカーラくん。単純な性格がプレイに出てしまうのだ。
ハルはハルで、陰湿な性格の一面がゲームに出ている。相手の嫌がることを徹底してやり続ける、上司の顔色を伺う読み合いには長けているという話に、筆者はゲームについて詳しくないが、内心「めっちゃわかる、大人になるとそういうスキルが勝手に身につくんだ」と共感してしまう。
ゲームはわからないながらも筆者は、ゲーセンでストⅡ(よく選んでいたのはダルシム)に興じた思い出がある。かっこいいコンボをきめて敵を倒したときは格別だ。格ゲーをよくやる人にとって本書は、ゲームのマニアックな描写により、わかるわかるとより面白く思えるはずだ。
コロナ禍でもそうだし、30代半ばという筆者の年齢的な上でも、人の家で夜な夜なゲームをして、そのまま寝落ちする遊び方は皆無である。そんなこともあり、本書を読んでいると懐かしさが爆発。2人がゲームをしているときのやりとりや会話……。ゲームをするという行為自体が妙にエモいシーンに感じる。
会話の間などはそれほど気にしない。どんどん時間は解けていく。付き合ってもいない異性の家に行くことや、他人を家に招くことは大人になってからはかなりハードルが高いことだが、「ゲームをする」という名目だけで、ハードルが自然と下がるような気さえする。やましいことはないのだから(たぶん)。この遠くはないけど、近すぎもしない、絶妙な距離感。ほっこりとする微笑ましいやりとりが本書には満載だ。
作中に出てくるゲーセンの常連たちにとって、ハルとタカーラくんが癒しの存在であるように、私もかわいい2人を見守りたい。
ちなみに、表紙のタカーラくんは前髪に”ヘアピン”をしている。
その理由を知ると……悶絶死できるぞ。
■書誌情報
『OLがゲーセンで会ったヤンキー男子高校生に懐かれる話』1巻
作者:安田剛助
出版社:KADOKAWA