【山の日】伝説の登山家から小説家、民俗学者も……日本人と山にまつわる おすすめ本5選

今日は山の日。山の日が制定された理由の一つは「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」ということだそう。民族学者の柳田國男や無頼派としても知られる小説家、坂口安吾は神秘的で畏怖する存在であった山についての論じた名著もある。もちろん山に挑んだ登山家たちの作品も多数。新刊から古典的作品まで幅広く紹介していく。

山野井泰史『CHRONICLE クロニクル 山野井泰史 全記録』(山と渓谷社)

 稀代のクライマーであり、日本を代表する登山家である山野井泰史。20代前半から世界の大岩壁にソロで挑み、ヒマラヤなどの高峰を舞台に歴史的な成果を挙げてきた。

 ヒマラヤの第一線での登攀活動は、自著『垂直の記憶』(2004年、山と溪谷社刊)にまとめられたが、本書は、クライミング専門誌などに発表されたものの単行本に未収録だった若いころの手記や、『垂直の記憶』刊行以降に発表された雑誌原稿などを一堂に集めた記録集となっている。

 高校卒業後、世界の第一線を見据えて向かった、血気盛んな武者修行。壮絶な脱出行で多くの指を失ったあと、不屈の精神でクライマーとして復活を果たすまでの奮闘。つねに自身の限界を押し上げる冒険に挑み、ときには天才でも抱える心の葛藤を、素朴で飾らない言葉で綴っており、それが読み手の心に響く。

 『垂直の記憶』で綴られたヒマラヤの記録についても、豊富な写真と当時を回顧する短文を添えて再構成。巻末には、山野井泰史の登攀志向に迫る対談やインタビューの再録、加えて、45年にわたる膨大な登山歴から主要なものを抽出した登攀年譜を収録。山野井泰史のタイトル通り、まさにクロニクルを収めた内容といえるであろう。山野井という大きな頂を収めた保存版といえよう。

夢枕獏(原作)谷口ジロー(漫画)『神々の山嶺』1 (集英社)

 夢枕獏の原作『神々の山嶺』を『孤独のグルメ』でも知られる谷口ジローによる漫画『神々の山嶺』。2017年に逝去した谷口ジローであるが、現在でも海外での人気が高く、特にフランスでは芸術勲章を受章し、彼の死去の報道をフランスの新聞、ル・モンド紙は1面で報じたほどだ。

 国民的漫画家とも言える谷口ジローの人気を証明するように、2021年には、フランス人のパトリックインベルトが監督をし、フランス語のアニメーション映画としても公開。300を超える劇場で上映されて、13 万人以上の動員があるほどのヒットを記録した。

 現在(2022年8月11日現在)では日本でも上映中。映画を観る前に、まずは原作を読んでみてはいかがだろう。ちなみに2016年には平山秀幸監督で、岡田准一、阿部寛が出演した『エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)』は夢枕獏版が原作。読み比べ、見比べも良いのでは。

『紀行とエッセーで読む 作家の山旅』(山と渓谷社)

 明治、大正、昭和の著名な文学者が山に登り、あるいは山を望み著したエッセー、紀行、詩歌を編んだ一冊。作家の登山紀行やエッセーを集め、文学者の目に映った山と自然から、新たな山の魅力を探り、いままで紹介されることの少なかった山を愛した文学者の姿を紹介する。昭和初期に活躍した「無頼派」の代表的作家である坂口安吾の一編が白眉。それまで髪が存在し、畏怖される山が、登山という行為によってどう変化したか。妖怪や狐といった山に日本文学を比喩に考察している。短編が多く読みやすい作品集だ。

柳田國男『山の人生』 (KADOKAWA)

 マタギや山男、山の神、神隠し、天狗や鬼といった、山に関する数々の伝説や逸話などを丁寧に徹底的に取材を重ねる柳田民俗学の代表作の一つ。丁寧に実地をもって精細に例証。透徹した視点でつづる柳田民俗学の代表作。「山人考」で述べられる「現在の我々日本国民が、数多の種族の混成だ」というDNAでの化学的検査ではなく民俗学視点からの考察が「動かぬ通説」と述べ、そこが柳田の山人への研究への発足点となっていることが解る内容だ。

植村直己『新装版 青春を山に賭けて 』(文藝春秋)

 学校では手のつけられないほどの少年が、大学へ進み美しい山々と出会う。無一文で日本から出て、1970年に世界最高峰エベレストに日本人で初めて登頂。その後五大陸最高峰のすべてに登項する。1984年、北米最高峰である冬のマッキンリー(現在ではデナリ)世界で初めて単独登頂したが、下山中に消息不明。現在でも語り継がれる伝説の登山家、植村直己がその型破りともいうべき青春を語り尽した作品。

 まだまだ多数ある日本人と関わりの深い山に関する作品。ぜひおすすめの本を読んでみてはいかがだろう。

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