【漫画】人間が光合成だけで生きられるようになったら……不思議な空気感の短編創作漫画『明日は葉緑体』が面白い


――「人類緑化計画」はどこから思いつきましたか。

かくたすず:仕事などでうまくいかないことが続いたときに、なんのために働く必要があるのかと自問しました。その答えが、日々何かを食べて生きるため、だったんです。

 食べるからお金を作らなければならない側面があるのなら、食べなければお金も必要ないし、働かなくてもいい。就職活動がつらかったときに、友人らと「霞を食べて生きていけたら働かなくてもいいのにね」なんて冗談を言っていたこともあり、植物になったら光合成でエネルギーを作れると思いました。それが「人類緑化計画」が生まれたきっかけです。

――就職活動で苦労されたのですね。

かくたすず:就職活動をきっかけに、自分はどういう人間で、どうやって社会の役に立てるのかを考えるようになりました。それまで考えたこともなかったのに、就職活動が始まると、途端に、自分の強みや価値観に合った仕事について考えなくてはなりません。しかし、考えれば考えるほど答えが出なくなり、徐々に気持ちも病んでいきました。

――その背景を聞くと、冒頭の主人公 一樹の諦めにも近い気持ちが理解できるようです。

かくたすず:自分がどんな人間なのか、どんなふうに役に立てるのかなんて、社会的生き物である人間だからこその悩みだと思います。植物になれば社会は関係なくなるのではないでしょうか。

 この作品を描くにあたり、植物はどんなことを思い、話すとしたらどんなことを言うのだろうと考えました。おそらく、他の生物にそこまで大きな関心はなく、雨が降れば「降ってきたな」とか日光が出れば「なんだか日が照ってきたな」といったこと程度の考えなのかも。大きな木で日陰ができて自分に日光が届かなくても、大きな木を恨むこともなく受け入れる……。

 おそらく社会的な悩みはなくて、環境の変化に淡々と順応しながら生きていくのだろうと思うのです。

――植物を「受け入れるもの」として理解しているのに、主人公が人類緑化計画に参加すると、光合成をするために外出しますよね。引きこもり男性が植物化して外に出る、というのは面白い発想だと思います。

かくたすず:半分植物で半分人間の段階だからです。人間はよりいい環境を求めて移動しますよね。そういう人間の習性があの時点では残っているからだと思います。

――ところで、一樹は外出先で突然刺されてしまいますよね。そのときに「あんな税金の無駄遣いに協力している人」というセリフが出てきますが、時代設定があれば聞かせてください。行政が機能していなかったり、何かしら市民が困るようなことが起こっていたりするのでしょうか。

かくたすず:実はこの作品の裏テーマが「どんなにいいことをしても反対意見は出てくる」なんです。何をしても言いがかりをつけてくる人っていますよね。誰にも迷惑をかけていないし、なんなら環境にいいこともしているのに、否定したい人は必ず出てきます。

――なるほど。ところで、ラストがとても印象的ですが、どういった感想が寄せられますか。

かくたすず:この作品は何度かTwitterにあげているので、これまでにも感想は届いているのですが、印象的だったのは「人と関わり合えることはありがたいんだな、と感じた」といった内容でした。そんな風に感じてもらえるなんて素敵だな、いい感想だな、と思いました。

 ただ、自分からどう思ってほしいとかはないので、自由に受け取ってもらいたいですね。

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