webtoon界の新鋭『史上最高の領地設計士』“異世界転生モノ”のセオリーの踏襲と意外性が作り出す面白さ
フルカラー・縦スクロール形式で描かれる、デジタルコミックwebtoon(ウェブトゥーン)。電子コミックサービス「LINEマンガ」では、2022上半期ランキングの上位をwebtoonが占めるなど、特に力を入れているカテゴリの一つだ。
そんな「LINEマンガ」のランキングは、『女神降臨』『外見至上主義』『喧嘩独学』など、webtoon界におけるメガヒット作品が上位を占めるが、ここ最近徐々に順位を上げて勢力を拡大している話題作がある。それが、今回ご紹介する『史上最高の領地設計士』(原作:BK_Moon、作画:Kim Hyunsoo、脚色:Lee hyunmin)だ。
小説の世界に転生、最悪なシナリオを書き換えていく
『史上最高の領地設計士』は一言でいうと“異世界転生モノ”。物語は、主人公・山瀬大河が寝る前に読んでいた小説「鉄血の騎士」の世界に突如として転生してしまうところから始まる。「鉄血の騎士」とは、後に全大陸に名を轟かせる剣聖・ハビエルの活躍を描いたファンタジー小説だが、大河が転生したのはハビエルではなく、ロイドというボンクラ息子だった。
広大な領土を収める男爵家の一人息子として生まれたロイドだが、自身の傍若無人な性格、そして男爵家が背負った借金によって生活は崩壊。小説の通りにいくと、最終的には物語の半ばで命を落としてしまう......。
男爵家に仕える剣士にして、小説「鉄血の騎士」の主人公であるハビエルですら冷たい態度を取る、最低なキャラクターに転生してしまった大河。だが、転生前の世界で得た土木工学の知識を活かして、ハビエルと共にショベル片手に領土を開拓して借金を返済し、ロイドが辿るはずだった最悪なシナリオを書き換えていく。
“異世界転生モノ”のセオリーの踏襲
登場人物が何らかのきっかけで、生まれ育った世界とは全く違う次元の世界に足を踏み入れ、新たな自分となって人生をやり直す“異世界転生モノ”。実は、この異世界転生モノにはいくつかのセオリーがあり、『史上最高の領地設計士』はそれらをしっかりと踏襲している。
まず、転生前の人生で得た知識を活かして転生先で活躍する点。転生する前の世界では当たり前、あるいは役に立たなかった知識が、転生後の世界では重宝される......といった展開は異世界転生モノではよく見受けられる。本作では、大河が転生前に学んだ土木工学のお陰で家を建てたり、その世界には存在しない床暖房を作ることで、周囲からの信頼を勝ち取り無双していくシーンがこれに当てはまる。
さらに、異世界転生モノでは欠かせないチート能力持ちという設定。チート能力持ちとは、現実ではあり得ない高度な能力を兼ね備えていることを指す。大河は、絶対者と呼ばれる存在によって、一瞬で領地を測量できる目や、まるで重機並の力を持つ召喚魔など、まさにチート能力を瞬時に手に入れる。
このように、異世界転生モノあるあるがしっかりと踏襲されている『史上最高の領地設計士』。だからこそ、異世界転生モノの魅力でもある“俺TUEEE”が溢れ出る、爽快な読み応えとなっている。
ヒロイン不在なのに湧き起こる「可愛い」という感情
異世界転生モノのセオリーをしっかりと踏襲している『史上最高の領地設計士』だが、一方で異世界転生モノらしくない意外性が、本作をより魅力的なものにしている。
最悪なシナリオを変えるために、持ち前の土木工学の知識、そしてチート能力を使って順調に無双していく大河。だが、チート能力を得るためにはRPと呼ばれるポイントが必要になる。主要人物との人間関係を改善することでポイントが加算されていくが、これがなかなか難しい。大河自身は勤勉で心優しい青年だが、彼が転生したロイドというキャラクターはその真逆。領地に住む市民はもちろん、両親、そしてハビエルからの信頼はゼロ......。大河は、なんとか周囲からの信頼や好感度を得るべく努力を重ねる。
やがて、大河の努力や諦めない姿勢は周囲の心を動かし、元々ロイドに対して塩対応だったハビエルさえも徐々に信頼を寄せていく。相変わらず冷たい言動は目立つものの、時折優しい表情を見せるハビエルの姿はツンデレそのもの。そして、そんなハビエルを見ているとなぜだか「可愛い」という不思議な感情が湧いてくる。
異世界転生モノでは、物語の前半から魅力的なヒロインが登場し「可愛い」という感情をかっさらっていくことが多いが、『史上最高の領地設計士』ではハビエルがこのポジションを担っているように感じる。異世界転生モノのセオリーを踏襲しつつ、ツンデレバディものを見ているかのような心地良い可愛さ......。この意外性も相まって、楽しく読み進めることができる。
『史上最高の領地設計士』は「LINEマンガ」で独占配信中で、現在1〜3話が無料公開中だ。この機会にぜひ読んでみてほしい。
©BK_Moon・Kim HyunsooLee•hyunmin/LINE Digital Frontier