『どうしようもない僕とキスしよう』人を愛することの覚悟と重みを知る、禁断の恋愛群像劇

 姉弟の禁断の愛を描いた『罪に濡れたふたり』や、不倫の恋に落ちる『せいせいするほど、愛してる』の作者、北川みゆき氏による現在連載中の漫画『どうしようもない僕とキスしよう』(小学館)を読んだ。

 『罪に濡れたふたり』は1998年~2004年まで少女コミック雑誌『cheese!』で連載されていた。当時小学生~中学生だった筆者は何気なく読んでいたが、ずいぶん大人の恋愛漫画だという印象である。愛しているのに一緒にはいられない、人間の欲望や葛藤、試練が生々しく描かれた作品だ。当時はそうした運命や愛の形を、まだ理解できるほどの経験もなかったと思う。連載中の『どうしようもない僕とキスしよう』もテーマとして通じるところがあるだろう。本作を読んだとき、そんなことが頭をよぎった。

 人を愛することの覚悟と、その重みとは一体どんなものなのだろうか。

 ヒロインである宮野藍は、その姿形だけではなく、魂にまで目が奪われるような、誰もが認める美しく、”いい女”。だが、仕事ができて凛とした立ち振る舞いとは裏腹に、時々ひどく儚げで、遠い目をする。彼女は何を想っているのか、その先にあるものとは……。

 藍の周りには4人の男性が登場する。それぞれ一言では言い表せない、特別な関係だ。男たちは、彼女を自分のものにしたくなるのに、決して手には入らない。ひとりの女と4人の男、想いが交錯して複雑に絡みはじめる運命の糸。これは禁断の恋愛群像劇だ。

「キスをしないなら いいよ」

 そう彼女は身体を重ねる前につぶやく。一体、彼女が愛したのは誰なのか……。

 筆者がこの作品の魅力を語るなら、今のところヒロイン視点はなく、4人の男性視点で話が進んでいることが大きい。作者の過去作もこうした描写は多いが、ヒロインの気持ちが掴み切れないながらも、表情やしぐさ、言動で読み取っていくしかない。また、4人の男たちのように叶わない(敵わない)想いを抱え、どうしようもない気持ちを押し込め、葛藤する気持ちがあることを、本作を通して知る。贅沢な空想、夢想である。

 そのなかでも印象的なのが、藍の”目”だ。ぐっと惹きつけられるものがある。身体を重ねた後のひどく儚げな目、仕事でミスをした後の気恥ずかしいけどしっかりと感謝を伝えるときの目、諦めない気持ちを抱えながらも、拒絶を示すときの目など、強く美しく気高い。

『藍色の”藍”で藍方石 その青に魅了されて 抜け出せなくなる人間が多いーー』

 複雑な想いがありながらも、絶妙なバランスが保たれている5人。一方で紙一重の危うさがある関係。小さなほころびから徐々に大きなすれ違いを生むかもしれない。しかしこの作品が終わりを迎えるとき……それぞれの特別な人たちの行く先が、幸せなものでありますようにと思う。それが恋の成就でも、そうじゃなくても。

書誌情報

『どうしようもない僕とキスしよう』フラワーコミックスα1~6巻
作者:北川みゆき
出版社:小学館

関連記事