『チェンソーマン』第二部、ヒーロー不在も際立つ“新たな悪役”の存在感 第1話から藤本タツキの異才を読む
実際、第87話で、マキマは、かつて「4人の騎士」(と「武器の悪魔達」)が、チェンソーマンと戦ったというようなことを話している。その語り口があまりにも客観的なので、一見わかりにくいかもしれないが、ここで彼女がいっている「4人の騎士」の1人は、間違いなく「支配の悪魔」である彼女自身だろう。さらにマキマは、ベテランのデビルハンター・岸辺にこんなこともいっている。
私は
チェンソーマンを
使って
より良い
世界を
作りたいのです
例えば
死
戦争
飢餓
この世には
なくなったほうが
幸せになれるものが
たくさんあります
――『チェンソーマン』第84話・藤本タツキ(集英社)より
「死」「戦争」「飢餓」という単語が含まれたこのセリフもまた、マキマのいう「4人の騎士」が、『ヨハネの黙示録』に記されている存在であるということを裏づけているわけだが、仮にそれが“正解”だとすれば、「支配」の騎士=悪魔である彼女は、「より良い世界を作」るために、チェンソーマンの力を使い、自分以外の3人を消そうとしていたということになる(ちなみに、第一部のクライマックス――デンジとの死闘を経てマキマの肉体は滅び、「支配の悪魔」は現在、ナユタという少女に転生している)。
ここまで来るともう、何が善で、何が悪か、まったくわからなくなってくるのだが……。
いずれにせよ、物語はまだ再始動したばかりだ。今回登場した「戦争の悪魔」が、第二部のラスボスになるのか、あるいは、やがてデンジ(チェンソーマン)らと共闘するようになるのか、それはいまの段階ではわからないが、『ルックバック』『さよなら絵梨』『フツーに聞いてくれ』と、立て続けに鮮烈な問題作を放ち続けている藤本タツキという“異才”から、当分のあいだ目が離せそうにない。