古典文学の登場人物はDQN? 芥川賞作家による身もふたもない世界文学案内がおもしろい

〈これは十八歳の自分にはわからなかっただろうなあ〉(カート・ヴォネガット・ジュニア『スローターハウス5』)。〈読まずにはいられないのにきつかった(略)若い時に読まなくて本当に良かった〉(ラディゲ『肉体の悪魔』)。こうした呟きや老いを連想する作品の感想からは、歳を重ねたことを読書によって改めて実感する著者の姿も浮かび上がる。

〈四十代になって、いよいよ老いというか、年下の世代との齟齬を感じることが多くなってきた〉と思う著者が読んだ、ジェイムズ・ヒルトン『チップス先生、さようなら』。そこでは教え子たちが戦争で亡くなっても年下の妻に先立たれても、主人公・チップス先生が淡々と教師生活を続けていく。その淡々ぶりの味わい深さは、読んだ後にじわじわとよみがえってくるほどだという。

〈彼らの人生の分岐点にしゃしゃり出たりはしないものの、よりましな将来への一石であろうとする控えめだけど盤石な態度がうかがえる〉と著者が共感する、若者たちに対するチップス先生の在り方。それは津村記久子がこれまで書いてきた小説にも感じ取れるものである。本書を読むと世界文学をやりなおしてみたくなるし、彼女の作品を読み返してみたくもなる。

 

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