「マンガ大賞2022」ノミネート作品徹底解説 『ルックバック 』から『海が走るエンドロール』まで、受賞作はどれだ?

 「マンガ大賞2022」が動き始めた。最終候補作となる10作品が出そろって、選考員による投票を経て受賞作品が決定する。ウェブに一挙掲載の話題作があれば、デビューから60年以上という大ベテランの最新作もあって、どの作品が受賞しても話題になりそうなエントリーの中から、賞のコンセプトとなっている「今、この瞬間友達に一番薦めたいマンガ」として選ばれるのはどの作品か?

ノミネート作品

『海が走るエンドロール』たらちねジョン
『【推しの子】』赤坂アカ×横槍メンゴ
『女の園の星』和山やま
『自転車屋さんの高橋くん』松虫あられ
『ダーウィン事変』うめざわしゅん
『ダンダダン』龍幸伸
『チ。―地球の運動について―』魚豊
『トリリオンゲーム』稲垣理一郎, 池上遼一
『ひらやすみ』真造圭伍
『ルックバック』藤本タツキ
(50音順)

 20211年1月1日から12 月31日までに単行本が発売された作品のうち、最大巻数が8 巻までのマンガ作品から、1人の選考員が最大5 作品に投票する形で行った1次選考で、挙げられた235作品のうち得票数が多かった10作品が、「マンガ大賞2022」ノミネート作品として選ばれた。

 並ぶタイトルから浮かぶのは、ひとつは順当なセレクトだったということ。『【推しの子】』『女の園の星』『チ。―地球の運動について』は、昨年の「マンガ大賞2021」でも最終候補作になっていて、そこでの注目が継続して2度目のエントリーを果たした。もちろん、この1年間の連載で読み手を引きつけて止まない展開があったから、名前を残せたと言える。

 赤坂アカ×横槍メンゴ『【推しの子】』は、前世の記憶を持ってアイドルの子として転生した双子の兄妹が、母親を殺した犯人を見つけようと芸能界に近づいていく展開が本格化。兄のアクアは役者となってリアリティーショーや2.5次元舞台に出演し、妹のルビーもアイドルユニットを結成して活動し始める。漫画を舞台化する大変さや、役になりきる役者の苦心など、舞台を見る目を鋭くしてくれるエピソードが満載だ。

 聖書を絶対のものとして信じ、天動説を唱え地動説を異端として弾圧する宗教が存在する時代が舞台の魚豊『チ。―地球の運動について―』。現代から見れば理不尽とも言える苛烈な処置がこれでもかと繰り出されて戦慄させられるが、それでもひるまず己を信じる気持ちに従う者たちの勇気に引きつけられる。

 女子校で国語教師をしている男性の星が主人の和山やま『女の園の星』は、第2巻が出て第1巻と同様の“女子校あるある”エピソードを連発。通学途中の駅で毎朝降りる女子生徒はいったい何をしているのか。自習時間にはどのような会話が繰り広げられるのか。ありそうな上におかしいエピソードを重ねて読者を笑いの沼に引きずり込む。

 パワフルさを増した作品では、「マンガ大賞2021」で6位に入った松本直也『怪獣8号』の躍進が期待されたが、今回はエントリーからこぼれた。次から次へと面白い作品が出てくる中で10作品しか残れない厳しさを体現した。そんな『怪獣8号』が連載されているウェブコミック配信サイト「少年ジャンプ+」からは、『チェンソーマン』の藤本タツキが書き下ろして一挙掲載した143ページの作品『ルックバック』がノミネート。発表方法も衝撃的だったが、内容の方でも漫画に情熱を傾ける2人の女子が、それぞれに歩んだ道で起こった悲劇を描いて、やりたいことを生きてやり抜く大切さを訴えかけた。

 この『ルックバック』も含めた“ネット発”も「マンガ大賞2022」の特色のひとつだ。龍幸伸『ダンダダン』も同じ「少年ジャンプ+」で連載中の作品で、UFOの存在を信じる冴えない少年と、幽霊の存在を信じるギャルがコンビを組み、街で起こる幽霊や宇宙人が巻き起こす騒動に挑んでいく。ダイナミックなアクションを高い画力で描き続けている点が評価された。作者は藤本タツキのアシスタント経験があるそうで、“師弟対決”としても注目を集める。

 松虫あられ『自転車屋さんの高橋くん』もリイド社の配信サイト「トーチweb」で連載中の作品。東京にいる母親から離れ岐阜で働いている飯能朋子ことパン子が、故障した自転車をヤンキー風の高橋くんに直してもらったことから関係が始まり、だんだんと恋愛に発展していく。高橋くんの地元のツレたちとも知り合って広がっていくパン子の人間関係に、出会いというものが持つ価値を教えられる。版元のリイド社が、2021年9月に死去した『ゴルゴ13』のさいとう・たかをの拠点という部分も、受賞したら話題となりそうだ。

 出会いの大切さという面は、たらちねジョン『海を走るエンドロール』や真造圭伍『ひらやすみ』でも重要な要素として描かれている。映画好きだった夫と死別したうみ子が、65歳を過ぎて久しぶりに映画館へと行って海(カイ)という美大で映像を学んでいる学生に出会う。カイはうみ子に「映画作ったほうがいいよ」と言い、うみ子は美大に入って映画を撮るようになる。歳をとってもやりたいこと、やってみたいことがあるなら我慢せず、諦めないで挑むのだと諭される。

 『ひらやすみ』も美大に通うために上京してきた妹と、役者を目指していたはずがフリーターになってしまった兄が、とある縁から引き継ぐことになった平屋の家で暮らす日々に、さまざまな出会いが絡んでいく。妹には友人ができ、兄はバイト先の釣り堀で不動産会社に勤める女性と知り合う。夢も挫折もある都会暮らしに潤いをもたらす方法を教えてくれる作品だ。

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