ライターが選ぶ「2021年コミックBEST10」関口裕一編 漫画家への感謝の念を抱く作品たち
そして1位の『ポーの一族』。これは2021年の漫画界最大の衝撃だった萩尾先生の著書『一度きりの大泉の話』もあわせての順位である。誰しもが認める天才・萩尾望都。少女漫画界に確固たる金字塔を打ち立てた竹宮惠子。2人の巨匠が若かりし頃、大泉で寝食を共にしていたのは有名な話だ。
その二人の(正確には三人で住んでいたのだが)居住地は「大泉サロン」と呼ばれ、少女漫画版トキワ荘として語り継がれてきた。その頃にあった話を、萩尾先生が自身の経験、記憶、印象として語ったのが『大泉の話』であった。
正直、これを読んでいろんな感情が沸き起こって涙が止まらなかった。断片的な情報しか知らなくてあまりにも無知だった自分の愚かさに、萩尾望都という巨人の、そのあまりにも天才すぎる感覚に、そして萩尾先生がそんな状態になりながら『小鳥の巣』をはじめとした作品を描いていたことに。なにより、それでも漫画を描くことが好きで、筆を置かずに今日現在も描き続けてくれていることに。
私はリアルタイム世代ではないので25年ほどのスパンであったが、漫画を愛する人間として、またこうして現代で萩尾先生が描く「ポーの一族」の最新作を読めること、読み続けることができること、そんなに幸せなことはない。当時とは線が変わってもエドガーはエドガーだし、2016年時点でもまだエドガーが生きていて、しかも「エディス」の時点で完全に消滅していたと思っていたアランの亡骸を抱え、アランを生き返らせようとしているなんて……。
この先、萩尾先生がいつまで描いてくれるかも分からない、いつまで新作を読むことができるかも分からない。そもそもずーっと前に描くのを辞めていたかもしれない。そこまで追い込まれていた。ならば今こうして萩尾先生の漫画を読める、漫画界でもだいぶ少なくなってきた現人神の一人の作品が読める、そのこと自体に感謝するしかない。あの本を読んだら余計にそう感じる。
2021年も素晴らしい漫画の数々に巡り会えたこと、多くの作家先生方が素晴らしい作品を提供してくれたことに感謝。来年も一つでも多くの素敵な作品、才能と巡り会えることを祈って、また作家の皆様が健康で作品を描き続けられることを祈って、私的ベスト10を締めくくる。