研究室で繰り広げられる風変りなラブコメ 『アヤメくんののんびり肉食日誌』はなぜ面白いのか

 某大学・生物学科のとある研究室。ゴーグルとマスクをつけ、手元の化石と向き合うこと数時間……。化石のクリーニング(余分な岩石や泥を取り除いてきれいに整形する作業)に没頭しているのは、椿雛菊(以下、椿先輩)である。彼女は動物の骨格研究に情熱を注ぐ大学2年生。見た目はちょっと派手。「イケメンかどうかよりも、骨が好みかどうか」が重要だと友達の前で語る。

 そんな彼女がいる研究室に新しい1年生が入ってきた。父が有名な考古学者で、長く海外生活を送っていた菖蒲瞬(以下、アヤメくん)だ。優秀ではあるが、帰国子女のためか英語はネイティブ顔負けでも、日本語はあやしい。そして、距離の詰め方が独特だ。

「おっぱい触らせてもらっていいですか」

 椿先輩に対して、こんな口説き文句を言ってしまう始末である。

 しかし、椿先輩の返事も相当アレだ。

「……今度ね」「わかったわ。それなら……あなたの骨見せてよ」

 筆者も最初に作品を読んだとき、思わず「待て待て待てい!」とツッコんでしまった。だが内心、整形外科の看護師をしている身としては、骨格に目が行ってしまうのはわからないでもない(笑)。

 そんな二人が所属する研究室で、風変わりなラブコメが繰り広げられることになる。

気づいたらアヤメくんの不思議ワールドに没入

「恐竜は……どちらかといえば食べたいです」

 普段はぼーっとしていてマイペースなアヤメくん。身体の線は細く、日に当たっていなさそうで肉食というよりは草食っぽい。だが、好きな恐竜や爬虫類など興味のあることになると、積極的にガツガツと吸収していく。なかなかお近づきになれないような著名な教授にも、臆することなく話しかけることも度々ある。研究で集中していると、マジな目をして真剣にやっているときも……。このギャップがすごい。気づけば筆者の心もアヤメくんに食われている。

 興味のあることと言えば、もちろん椿先輩もそうだ。アヤメくんは恋愛経験があまりなさそうだが、それでも「骨が好き」だという椿先輩のために、10時間くらいかけて自分の身体に骨のイラストを描くなどストレートにアプローチする。他にも椿先輩が絡むと嫉妬したり、感情的になったり……。中身が小学生みたいなときもあるが、「アヤメくん、そういう顔もするのか~」という場面もたくさんあり、見ていて飽きない。

 最初はアヤメくんの生態および扱いがわからなくなる研究室のメンバー(たぶん読者もそうだろう)だが、段々といなくてはならない存在に。徐々に現れてくるアヤメくんの肉食感も、ぜひ堪能してほしい。

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