『SPY×FAMILY』違和感が生み出す圧巻のストーリーテリング 殺し屋・ヨルの仕事への葛藤を描く最新刊レビュー

 遠藤達哉の漫画『SPY×FAMILY』(集英社)の第8巻が発売された。本作は漫画アプリ「少年ジャンプ+」で配信されているスパイアクション&ホームコメディ。

 西国(ウェスタリス)のスパイ〈黄昏〉は、東西の平和を脅かす東国(オスタニア)の国家統一総裁・デズモンドの戦争計画を止めるため、精神科医のロイド・フォージャーと身分を偽る。そして、デズモンドの息子が通う名門・イーデン校に潜り込むため、孤児院でアーニャという少女を引き取り、市役所で働くヨルを妻とする偽りの家族を作るのだが、実はアーニャは人の心が読める超能力者、ヨルは殺し屋〈いばら姫〉だった。

 本作は3人が偽りの家族を演じるホームコメディと、国の平和を守るために諜報活動をおこなうロイドのスパイアクション。そしてイーデン校に通うアーニャを中心とした子供たちの物語が交互に展開される。

 この第8巻で電子書籍も含むシリーズ累計発行部数は1250万部を突破。同時に2022年にアニメ化されることも発表された。多メディアでの展開もスタートし、ますます盛り上がりをみせる『SPY×FAMILY』だが、この8巻では、ヨルの物語が急展開を向かえた。

以下、ネタバレあり。

 弟のユーリと生きていくために殺し屋として働いてきたヨルだったが、すでにユーリも大人となり自立した現在、「殺しの仕事を続ける意味はあるのか?」と、迷い始めていた。そんなヨルに新たな依頼が舞い込む。今回の任務は安全な第三国に逃亡するグレッチャーファミリーのオルカとその息子を護衛するためにクルーズ船に同乗するというもの。劇中ではオルカを殺し屋から守るヨルたち秘密組織ガーデンのサスペンスアクションと、同じ船に乗ることとなったアーニャとロイドのホームコメディが同時に描かれた。 

 全貌を知っているのは(超能力で心の声を聴くことができる)アーニャだけなので、彼女がロイドをヨルから遠ざけたり、戦うヨルをこっそりとサポートするのだが、子供なので至らない場面や知識不足でミスをする場面がコミカルでおかしい。中でも笑ったのが、敵の殺し屋が武器として使う鎖鎌を“くさりガマ”という「鎖につながれたガマガエル」と誤解する場面。知識が乏しくてアーニャが言葉の意味を間違える場面は今までにも登場したが、画の面白さもあってか、このシーンは一番ツボに入った。

 クルーズ船でのエピソードは、短編が多い『SPY×FAMILY』の中ではもっとも長い回となっている。同時に夫のロイドが本編に絡まず、完全に蚊帳の外でコミカルに描かれる異色回なのだが、コメディとシリアスが同時進行していくという意味では、もっとも『SPY×FAMILY』らしい回だとも言える。同時に一気に踏み込んだなと思うのが、殺し屋として働くヨルの葛藤で「ついにこれを描くのか?」と驚いた。

関連記事