後藤護の「マンガとゴシック」第2回

後藤護の「マンガとゴシック」第2回:楳図かずおと恐怖のトートロジー 『神の左手悪魔の右手』における鏡・分身・反復

アンチ・フレームからメタ・フレームへ——楳図から後進少女マンガ家へ

 最後に予告めいたことを。楳図かずおが後の少女マンガ家たちに与えた影響はかなり大きい。『スピーチバルーン・パレード』(河出書房新社)でも宮脇明子が『赤んぼ少女』からの強い影響を公言しているし、岡崎京子の楳図信者ぶりはとりわけ有名だ。

 ところで楳図のコマ割りは区画のように整理されていて、フレームで遊ぶことがない。枠に生命を持たせたくない、枠を読者に意識させたくないという「アンチ・フレーム」思想のマンガ家であることは既に見たが、面白いことに「恐怖の文法」を楳図から学んだはずの後進少女マンガ家たちの描く怪奇・幻想・耽美なゴシックワールドは、逆にラディカルなコマの実験場と化した。コマは伸縮自在であり、内容と同等か、それ以上に形式が強く意識された「メタ・フレーム」的マンガがあふれた。この連載の数回分では、そうした少女マンガ家たちの作品に目を向けるつもりでいる。


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