『坂道のアポロン』小玉ユキが描く、ままならない大人の恋 『青の花 器の森』に胸が苦しくなる

(※本稿は『青の花 器の森』のネタバレを含みます)

 小玉ユキ氏の『青の花 器の森』を読んで、胸の奥がぎゅっと掴まれて苦しくなった。

 大人だからこそ、なにかを諦めなければいけない、捨てなければいけないものがあるのだろうか。気持ちだけではどうにもならないような、引き返せなくなる前に、気持ちに蓋をして見て見ぬふりをして、それを自分の本当の気持ちだと思い込ませる。もう少し若かったら、過去のあの出来事がなかったら、また違った道があったのだろうか……。

 小玉氏の作品は『坂道のアポロン』『月影ベイベ』と読んでいて、最近になってこの『青の花 器の森』を知った。長崎県の波佐見にある窯元が舞台となっている。作者は長崎県の出身で波佐見焼は身近な存在だったという。一週間ほど波佐見の窯元に泊まり込みで取材をしたそうだ。

 波佐見焼の窯で絵付の仕事をしている青子と、そこに現れたのは海外で作陶活動をしていた龍生(たつき)。2人は反発しながらも器に魅せられ、次第に……。作品はそんな対極な2人の出会いからはじまる。

器に魅せられた2人、プロフェッショナルなそれぞれの仕事のあり方

 波佐見で生まれ育ち、祖父母や父母もやきもの作りに携わっている青子。波佐見は分業制で仕事が細かくわかれ、専門の人の力を合わせてみんなでやきものを作るのが伝統になっている。そのなかの小さな窯元で、青子は大好きな絵付の仕事をしている。大らかで明るい、食べることが大好きな31歳。

 龍生は静岡で生まれ東京の美大で工業デザインを学び、海外で作陶活動をしていた27歳の青年。わけあってやきものの勉強のために波佐見を訪れた。1年ほど学んだら出ていくつもりだという。そのせいか無愛想で、他人との間に分厚い壁が立ちはだかるように距離をとる。特に「絵付された器自体に興味がない」という龍生の言葉は、青子にとって自分の人生まで否定されたかのように感じてしまう。

 性格も仕事のあり方も対極にある2人。しかし、「いい器を作りたい」という作り手としての目線が同じになるところ、気持ちが重なるところはある。方向性の違う2人だが、波佐見で行われるやきもの祭りやコンペなどを通じて、少しずつ惹かれ、今までの自分では作れなかったような作品を共に作り上げていく。

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