【怪談】婚活アプリで出会った相手の正体にぞわり……『レイワ怪談 青月の章』の現代的なコワさ

 そういえば夏っぽいことしてないな……そんな物足りなさと暑さが残る、2021年の夏の終わりに怪談話はいかがだろうか。

 怪談家、ありがとう・ぁみ氏の原作をもとにした人気怪談小説集『レイワ怪談』シリーズの最新刊『レイワ怪談 青月の章』(学研プラス)。「5分で読めて一晩中怖い」のキャッチフレーズ通り、1話あたり5分で読める優しい語り口が特徴だ。子どもから大人までスキマ時間にサッと読んで、ゾッとできるスピード感は実に令和らしいところ。

 あまりにサラリと読み進められるからこそ、怪談好きな方の中には「こういう感じね」とつい油断してしまう人もいるかもしれない。だが、そんなタイミングで思わず息をのむイラストが視界に飛び込んでくるので要注意だ。

 令和らしいといえばエピソードにSNSや動画配信サイト、リモート会議システム、フリマアプリといった、私たちの生活に身近な存在となったツールがふんだんに取り込まれているところも面白い。なかでも読み進めていく中で「婚活アプリの罠」というタイトルが出てきたときには思わずにやけてしまった。

 怖い話というのは、読み手にとってどれだけ「自分にもそういうシチュエーションが訪れるかもしれない」と思わせられるかが、キーになってくるもの。筆者が小さいころ、レンタルビデオショップの中にある呪いのビデオテープを借りてしまうと、画面の向こう側に引きずり込まれて出られなくなるという話に震えたことがあった。

 いざ自分がレンタルビデオを利用するとき、いつ呪いのビデオを手にとってしまうかも知れないという恐ろしさがこびりついて、なかなか取れなかったのを覚えている。また、カーナビが暴走して死のドライブに誘われるなんていう怖い話にもゾクゾクとさせられたものだ。新しいサービスやアイテムが世の中に普及すると、その利便性に対して「こうなったらどうしよう」という怖い妄想も膨らむものなのだ。

 その点、マッチングアプリも現代を生きる私たちにとって、かなり浸透したものになりつつある。一方で、相手の素性までしっかりわかるわけではないというリスクもまた認識されるようになった。出会うことのなかった人に出会ってしまうということ。そんな漠然とした恐怖がベースにあるのも、令和の怪談話にピッタリな設定ではないかと膝を打ったのだ。日常にあふれているアイテムでありながら、非日常の入口となりうるもの。そのアプリを通じて出会うのは、この世の人か、あるいは……。

「婚活アプリの罠」はこちらから

 さらに、失われていく記憶という部分もまた怪談話と相性のいい題材だ。例えば、語り継がれるべき村の古い慣習が、代替わりするにつれて重要性が薄れ、ヒヤリとする展開につながるのは怖い話の典型ともいえるもの。本作にも、禁足地と呼ばれるエリアに足を踏み入れてしまう話がいくつか見受けられる。

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