『珈琲いかがでしょう』『凪のお暇』コナリミサトが語る、心地よく生きていくために 「時が経てば誤作動が正されるはず」
漫画とドラマ、2つの世界線が混乱する楽しい悩み
――やはりドラマ化された影響というのは大きかったですか?
コナリ:そうですね。これまで漫画で賞をいただいても親戚から連絡が来ることはなかったんですけど、ドラマ化となったらすごい反響で。やっぱりみんなテレビが好きなんだなって思いました。
――原作漫画の作者として、ドラマ化のオファーはどのようなお気持ちでしたか?
コナリ:それはもう超超超嬉しかったですよ。キャスティングにもわくわくしましたね。黒木華さんが凪を演じていただけることになったときには「やったー!! ピッタリ!」と空高くガッツポーズを掲げて喜びました。
――漫画読者的にも、「もしこの作品を実写化するなら、あの俳優さんがいいな」と妄想するのもひとつの楽しみですが、まさにそんな感じなんですね。
コナリ:はい。実は中村さんが『凪のお暇』でゴン役として発表される前に、LINEマンガで『珈琲いかがでしょう』を読んでくださった方がたが感想コメントとして「中村さんに似てる」と次々に投稿されてたんですよね。それで一気に中村さんのファンの方がたに『珈琲いかがでしょう』の漫画を知っていただけたんですが、私は最初、ゴンのキャスティング情報が漏れたのかと思って焦りました。
――(笑)。でもそこから『珈琲いかがでしょう』の主演に中村さんが決まって、みなさんが「あの俳優さんがいいな」と願っていたことが叶う形になりましたね。実写ドラマって、原作者の立場としてどのように見えるものなのでしょうか?
コナリ:実際に人が演じることで、さらに力強くなるシーンが確実にありますね。例えばキスシーンとか、私は恥ずかしくてなかなか描けないんですけど、俳優さんが演じられるとすごくロマンティックなシーンになるじゃないですか。そういうのは実写の強みだなって思います。『凪のお暇』のときのゴンと凪のベランダ越しのキスとか、みんなの見てる前で凪を連れ去る慎二とか、「もう私描けないよ、こんなの。ドキドキしちゃうよ」って悶えながら見ていました。
――では、違う世界線の物語として楽しむことができるんですか?
コナリ:そうですね。でも、同じ名前で、同じ性格じゃないですか。だから、見ているうちにドラマオリジナルの展開を、自分が描いたような気になってしまうこともあって(笑)。『凪のお暇』の漫画本編では、坂本と慎二ってまだ会ってないんですよ。でも、ドラマでは会っているので、もうすっかり顔なじみのような感覚で描いていて、なんか違和感があるなと思っていたら「あれ、この2人“はじめまして”じゃん」って、慌てて描き直したりして。
――面白いですね。連載が長期化すると、広がった人間関係もすべて覚えていないといけないですから、大変ですよね。
コナリ:そうですね。人物相関図をそろそろ作らないといけないのかなって思い始めています。まだ作ったことないんか、ってツッコまれそうですけど。
漫画にすることで、やってみたいことを形に
――コナリ先生は、もともと雑貨屋さんで働かれていて、1人でできる仕事を探した結果、漫画家さんになられたとお聞きしました。絵が好きな人は多くいらっしゃいますが、「なろう」と思ってすぐに行動に移せるところは、コナリ先生が描かれる作品の主人公に共通しているなと感じたのですが。
コナリ:そうかもしれないですね。「とりあえず形にしてしまえ!」みたいなところはあります。今は自分がやってみたいことを漫画のテーマにすることで、やらざるをえない状況になるかなって。『黄昏てマイルーム』もDIYをやりたいと思って始めました。もともと小さいころからプラ板を焼くとか、工作することが好きだったんですけど、漫画にすればもっとやるだろうと思って。おかげさまで立派な趣味になって、よかったです。
――実際に仕事場をDIYされているんですよね?
コナリ:はい。壁面収納が結構かわいくできたので、次は明かりを作ろうかと思って材料を買ってきたところです。今抱えている原稿が終わったらやろうと思って。もちろん買っちゃったほうが早いし安いくらいなんですけど、あえてその手間というプロセスをお金で買っているのかもしれないなって、DIYをやりだしてから思うようになりました。うまくいかなくてイライラしたり、想像と違ってがっかりするけど、しばらくすると「これも味かな」って思えてくるんですよね。
――失敗する自分を愛でることができるのは、自己肯定感に繋がりそうですね。
コナリ:失敗すればやっぱり落ち込みますけどね。この前もペンキ塗っているときに、髪の毛が落ちちゃって、「どうして……こんなことならやらなければよかった」なんて思いました。でも、2日ぐらい経つと「髪の毛どこだっけ?」みたいな。意外と大丈夫!
――最近、すべてに対して完璧主義というか、ミスのない世界を求めすぎているような流れというか、そういう生きづらさがあるように感じます。
コナリ:わかります。SNSでも「〜べき」みたいな声があると、ちょっと「ウッ……」ってなっちゃいますね。人は人だし、自分は自分だしなぁ…と思います。あまり正解ばかりを押し付けられるのも、息苦しいなって。
――影や病みを持つキャラクターを作り出すのに、SNSなどをソースにされているのかなと思ったりしましたが。
コナリ:情報源は、飲み会なことが多いですね。今はなかなかできませんが、以前はよく飲みの席に参加していました。たくさん友達がいるわけではないんですが、1人の話から5人くらいのキャラクターが作れるので。
――なるほど、その人が持つ多面的な顔の一つをキャラクターにしていくんですね。
コナリ:そうです。ヤクザの描写については、もう『アウトレイジ』を見て勉強しました(笑)。
――『ドラゴンボール』に『カイジ』に、『アウトレイジ』!
コナリ:高橋留美子先生の描くラブコメも大好きです。『らんま1/2』のシャンプーがずっと憧れの女の子です。『凪のお暇』もラブコメのつもりで描いているんですけどそう言うと「ラブコメですか?」って言われるんですよ。ラブコメでしょうに!って。
――ラブコメですか(笑)?
コナリ:ラブコメでしょう(笑)!