「LaLa」編集長が語る、45年の歴史と作家との関係性 「“これはLaLaらしい”と誰もが感じる作品を送り出していきたい」

作家性を伸ばす作品づくりをめざす

 ――「作家性を大事にする」というのは、実はいちばん難しいことじゃないかと思うんです。先ほどもおっしゃっていた商業の視点を備えながら、自由さを失わせてもいけない。そのバランスはどのようにとっていらっしゃるのでしょう。

佐藤:確かに、作家さんにただ自由に描いてもらうだけでも、こちらがガチガチに固めすぎても、売れる作品はつくれないんですよね。ただ、これが正解だというものが見つけられないから、私たちは常に試行錯誤をしているわけで……。最初から自由にのびのびやってもらったほうが物語が跳ねる作家さんもいれば、ある程度の型にはめたほうが作家性が生きる作家さんもいる。たとえば『学園ベビーシッターズ』(時計野はり)の企画を通したのは、「花とゆめ」誌面で『赤ちゃんと僕』(羅川真里茂)の連載をたちあげた編集者だったんですよ。『赤僕』がわりと重めのテーマも扱いながらドラマで読ませていく作品だったのに対し、『学園ベビーシッターズ』はもう少しライトに、「このかわいい子たちをもっと見てみたい」という欲求を叶えてくれる作品。時計野さんのあたたかみある絵柄だからこそこのネタが生きる、と編集者がした提案が、うまくハマった好例ですね。

――最近の作品で、ちょっとチャレンジングだったけどヒットしたな、という成功例はありますか?
 
佐藤:2019年に連載開始した『転生悪女の黒歴史』(冬夏アキハル)は、私が「LaLa」を離れているあいだに一番ヒットしたんですけれど、なかなか新しい作品だなと思いましたね。自分の黒歴史ともいえる、中学時代に書いたファンタジー小説の登場人物として転生してしまうという、異世界転生モノのなかでもあまり読んだことのないタイプの物語で。時代の流行をとりいれながら作家性を引き出していく、という作品の作り方じたい、これまでの「LaLa」では見られなかったものなので、すごいなあとシンプルに感心しています。あとは『機械じかけのマリー』(あきもと明希)は、男性読者が多くて「アニメイト」での売れ行きも好調な作品です。元天才格闘家のマリーが、機械人形のふりをして、大企業の御曹司のメイドとして働くというギャグ要素の強い作品なんですが、キャラクターの描き方が絶妙にうまい。

――どちらもコメディ要素の強い作品ですが、ガチガチの恋愛はあまりウケなくなっている……みたいな時代の変化を感じることはありますか? テレビドラマでも、最近はどっしりした恋愛が少なくなっているような気もするのですが。

 佐藤:ライトな読み心地の作品が好まれがち、というのはあるような気がしますね。男性キャラの描き方も、ヘタレ系男子が増えてきていて。まあ、もともとフェチ性の強さで年下男子は多く描かれがちでしたけど、性格的にはオレ様なキャラクターが多かったように思うんです。私が入社してから十年くらいは、ラブコメで人気のあった『会長はメイド様!』(藤原ヒロ)をはじめ、壁ドン・顎クイを多発させるドS男子が好まれていたんですが……おそらく働く女性が増えてきて、癒しを求めるようになってきたのかもしれません。

 ――ドS男子からヘタレ系男子に人気が切り替わった、きっかけの作品はありますか?

 佐藤:(LaLa)前編集長が(「花とゆめ」編集部時代に)たちあげた『高嶺と花』(師走ゆき)はひとつのターニングポイントだったかもしれません。「花とゆめ」に異動する前だったんですけれど、これは新しいキャラクターの型が生まれたな、と思ったのを覚えています。高嶺は物言いも態度も横柄なんだけど、イケメンでセレブ、仕事もできるエリートだからこそ、許される。これまで描かれてきたSキャラの流れを継ぐ完璧なヒーローなのに、JKの花に軽くいなされて、ダメなところがどんどん露呈していってしまう。残念なんだけど、そこがかわいいという。

 ――『機械じかけのマリー』や、いま連載中の『末永くよろしくお願いします』(池ジュン子)もそうですが、主人公にだけダメなところを見せてくれる、というのがポイントですよね。働く大人の女性読者はたぶん、仕事のできない男子には厳しいから(笑)。

 佐藤:そのへんの理想を詰めていくと、望まれるのはオレ様系のドS男子ではないのかもしれませんね。……とはいえそれは、そういう傾向がある、というだけの話で。ライトな読み心地が好まれる今だからこそ、カウンターとしてどっしりとした恋愛を描く作品がほしいなとも思いますし、以前より減ってはいたとしても、ドS男子の需要にも応えていきたい。実際、『天堂家物語』(斎藤けん)はかなりシリアスで、偏執的なフェチズムも強い作品ですけど、従来の「LaLa」らしさを存分に発揮しながら、人気がある。時代を読みとった先鋭的な作品であろうと、昔ながらの王道作品であろうと、読者をエンタメとしてとことん楽しませてくれるものであってほしいというのが、私のいちばんに望むところです。感情の流れを丁寧に汲みとって描くことで、読者になんらかの強い感情を喚起させてくれるのが少女マンガのおもしろさだと思うので。

 ――白泉社には「Love Jossie」といった、エロティックな描写が多めの電子限定雑誌がありますが、WEBの読者が増えつつあるなかで、挑戦していきたいことはありますか?

 佐藤:三月に、電子限定の増刊誌として「××LaLa いちゃLaLa Vol.1」というのを配信したんです。そちらでは、本誌にはちょっと載せづらい官能的な描写が多い作品を掲載しています。七月には「××LaLa BLaLa Vol.1」というBL雑誌も電子で創刊しまして。懐の深い雑誌でありたい、とは言いつつも、やっぱり官能やBLを本誌に混ぜていくのはハードルが高い。それよりは、そのジャンルを好む読者に向けた一冊を、そのつど配信していけたらと思っています。一分野・一編集長でチャレンジしやすい土壌をつくれば、それは編集者たちのモチベーションにもなるでしょうし。作家性を伸ばす作品づくりをめざすには、編集者たちもまた、のびのび個性を育てていってほしい。その結果、「これは『LaLa』らしいね」と誰もが感じてくれるような作品を、世に送り出していければと思います。

→【画像】インタビューに登場した作品の書影一覧

「第4回 ラララボ!1dayハイスピードマンガ賞」

1日限定・投稿してから1週間でデビュー決定する企画『ラララボ!』の第4回の開催が決定した。応募作品すべてに、当日中にLaLa編集部員がレスポンスする。

「LaLa2021年9月号より」©緑川ゆき/白泉社

応募期間:2021年8月9日(月・祝)00:00~21:00予定
結果発表:一次審査の結果は2021年8月10日(火)中に最終結果は8月13日(金)にマンガラボ!上にて発表予定。
審査員:LaLa編集部
コメンテーター(五十音順/敬称略):
樋野まつり『ヴァンパイア騎士』シリーズほか
緑川ゆき『夏目友人帳』ほか
石原ケイコ『偽りのフレイヤ』ほか
縞あさと『君は春に目を醒ます』ほか

■作品内容
●ページ数4P~50P
●マンガ形式の読切作品に限ります。(ジャンルは不問です。)
※マンガ以外の形式でのご投稿の場合、審査の対象外となります。
※連載の形式の場合、1話目のみを読ませていただき審査させていただきます。
●商業誌未発表の完成原稿に限ります。
●一人何作品でも応募可能です。
※ただし、複数投稿の場合、全作品へのコメントではなくスタンプ対応とさせていただく可能性がございます。
●過去に投稿したものの再投稿も大歓迎!
※ただし、第1回(2019/10/27開催)、第2回(2020/5/24開催)、第3回(2020/11/29)に投稿した作品の再投稿はご遠慮ください。

■漫画投稿サイト「マンガラボ!」
https://manga-lab.net/

■書籍情報
「LaLa」9月号
定価:490円
出版社:白泉社

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