『三体』劉 慈欣×大森 望 対談 「空間や時間がどれだけ拡大しても、わたしたちはちっぽけな存在」
「世界SF作家会議」について
大森:『三体』の話からは少し離れますが、劉さんにも出演していただいた「世界SF作家会議」というフジテレビの番組が本になりました。これから番外篇が放送されるので、そちらに向けて、二つ、コメントをお願いしたいと番組からリクエストされています。この番組は、日本のSF作家に加え、劉さんのほかにも、『三体』の翻訳者でもあるアメリカのケン・リュウさん、中国の陳楸帆さん、韓国のキム・チョヨプさんに参加していただいて、いろんな問題について話し合うという内容です。まず、番組が本になったことについて、ひとこといただけますでしょうか。
劉:番組に出演したことは、忘れられない思い出でした。早く本の実物が見たいですね。
大森:最初に出演していただいたときに、コロナ禍についてうかがいました。そのとき、劉さんは、パンデミックという災害はまったく予想できないものではなかったとおっしゃっていました。過去に何度も前例のあることだから、備えられたはずだ、と。実際、中国は早期に収束させたわけですが、世界ではいまだにCOVID-19を制圧できていません。あれから一年近く経って、コロナの世界的な状況についてはどうお考えですか。
劉:世界的にコロナ禍が続いているのは、各国の考え方によるものなのではないかと思っています。直線的に発展を続けてきて、そのまま発展が続いていくとみんなが思い込んでいたところに想定外の事態が発生した。それに対する予防措置がきちんととれていなかったのではないか、考える能力が欠けていたからこうなっていたのではないかと思います。想定外のことというのは、必ずしも今回の大規模な感染症だけではなく、それ以外のことも起こりうると思います。
それともうひとつ、平和な状況の時と、災難がふりかかっている時とでは、社会の動き方が同じではないということです。大きな災害が降りかかった時、すぐにそれに対応する状況に移れないと、すみやかに抑え込むことはできない。今回の新型コロナウイルスがパンデミックを起こしたことは、その教訓になったのではないかと思います。
大森:『三体』三部作を読むことも、そういう予想外の災害に対する備えになりうると思います。
劉:小説はあくまで、こういったことがありうる、あるいはこういうことを考えた方がいいという思考回路を提供するだけです。本当にやろうとするのであれば、もっとしっかりやらないといけないですし、大変だと思います。
大森:最後にひとつ。これから『死神永生』を読む日本の読者に向けて一言メッセージをいただけますか。
劉:日本の読者のみなさん、こんにちは。『三体』を読んでいただきありがとうございます。読者のみなさんも私と一緒にこの長い紆余曲折の道のりを歩んでくださっていることに感謝します。一緒に人類の未来を考えて、大きな災難が来ることをともに疑似体験し、異星人との接触も体験しましょう。ぜひ、ほかのSF小説を読むときと同じように楽しんで読んでいただきたいと思いますし、いろんなことを考えてほしいと思います。私たちは同じ世界にいます。ぜひ、楽しんでください。ありがとうございました。
大森:ありがとうございました。
■書籍情報
『三体Ⅲ 死神永生(上)』
『三体Ⅲ 死神永生(下)』
著者:劉 慈欣
翻訳:大森 望、ワン チャイ、光吉 さくら、泊 功
出版社:早川書房