【漫画】ツアーナースの仕事、そのかけがえのない魅力とは? 人に寄り添う姿勢に共感

 『漫画家しながらツアーナースしています』は、タイトル通り「ツアーナース」として働く明さんが描いたお仕事エッセイ漫画だ。子どもたちの宿泊行事などに同行するツアーナースという職業の実情を知るとともに、様々な病気やそのケアについても学べる内容だと評判で、6月4日には待望の単行本第三弾となる『漫画家しながらツアーナースしています。現役ナース・先生・ママの“推し”セレクション』が刊行された。リアルサウンド ブックでは今回、著者の明さんにメールでインタビュー。本作を描いたきっかけや、ツアーナースという仕事の魅力について、たっぷり回答してもらった。(編集部)

『漫画家しながらツアーナースしています』1話試し読み(スマホの方は左にスワイプ)

成長する姿や頑張っている姿が大好き

ーー『漫画家しながらツアーナースしています』は、「ツアーナース」という職業の魅力をわかりやすく伝えるとともに、子どもたちの病気や怪我にはそれぞれに様々な症状があることや、相手に寄り添うコミュニケーションの大切さが学べる有意義な作品だと感じました。まずは明さんがツアーナースとなった経緯を教えてください。

明:ツアーナースの最初のきっかけは、姪っ子ちゃんが生まれたことです。初めての姪っ子ちゃんは、あまりに可愛くて宝物のようでした。でも、世間では、学校でのいじめや不登校など、つらいニュースがたくさん溢れていて、そんな中で姪っ子ちゃんが成長していくのかと思うと不安でもありました。もし姪っ子ちゃんに辛いことや、親にも相談できないことが起きたとき、相談できる存在になりたいとも思いました。でも私は,ニュースでしか今の子どもたちを知らない。「それなら、知ろう!」と考えたわけです。同時期にツアーナースという仕事があることを初めて知り、興味があったので、チャレンジしてみることにしました。

 その姪っ子ちゃんももう小学校高学年になります。随分と長いことツアーナースを続けているな、と改めて思いますね。

ーー旅行に帯同するツアーナースならではの大変さと面白さを改めて教えてください。

明:監修をしてくださった坂本(昌彦)先生が、コラムの中でおっしゃっているのですが、「トラベルはトラブル」で、旅にトラブルはつきものなんですよね。持病のある人であれば、病気は旅先にもついてきますし、健康な人でも「いつもと違う環境」では、体調を崩したり事故に遭ったりしやすいものです。

 だから看護師として同行するわけですが、まずは全ての先生、生徒の皆さんと初対面なので、「よい第一印象をもってもらう」という難問が待っています。看護師としての能力を最大限に発揮するには、一にも二にも、先生や生徒の皆さんに、信頼してもらうことが大切です。信頼してもらえなければ、誰も頼ってはくれませんからね(汗)。

 それに、子どもたちの健康の一番の責任者は先生たちです。たとえ専門家として同行していても、先生を差し置いて勝手なことはできません。あくまでも先生に協力する形で参加しているので、先生たちと信頼関係を持って協力していくことが大切なんですよね。でも私は人見知りだし、話もうまくない。その上、要領が良くないので、いつも苦労しています。

 その一方で、面白いと感じるのも、先生や生徒の皆さんと信頼関係をもって、チームとして、一緒に過ごせることだったりします。宿泊行事の短い期間ではありますが、色々なイベントを一緒に楽しみ、時にはトラブルに立ち向かっていると、確かに一体感のようなものを感じます。旅を一緒に過ごす仲間として、濃厚な時間を一緒に過ごせるわけです。他ではちょっと味わえない体験です。しかも、ツアーナースとして参加すれば、その数だけ濃厚な体験をくり返せるわけです。次はどんな体験が待っているかな、どんな関係を築けるかな、といつもワクワクします。

ーーツアーナースにとって大切なのは「コミュニケーション能力」だと書かれています。漫画内でも明さんが子どもたちに寄り添ってコミュニケーションをとることで、心の不安を取り除くシーンが描かれていますが、こうした態度はツアーナースをする方のみならず、誰にとっても学びのあるものだと感じました。コミュニケーションについての明さんの考え方を改めて教えてください。

明:ツアーナースのお仕事は、「初対面の人たちといかに信頼関係を築けるかどうか」が、明暗を分けます。となると、コミュニケーションは何よりも重要です。

 まずは第一印象が大切なので、「演出」します。できるだけ「優しく、まじめで、清潔感があり、安心できる人」に見えるように、髪型や服装、メイク、所持品、言葉遣いなどに気を配るわけです。毎回、就活の学生みたいな気分です(笑)。あまり会話が得意ではない分、見た目が肝心なところもあります。でも、第一印象からコミュニケーションは始まるので、大事なことだと思っています。

 それから大事にしているのは、みんな違うし、みんな同じだということです。一人一人は別々の人間で、同じ言動や反応を示している人がいても、その要因はそれぞれ異なることもあります。それは発熱の原因が、熱中症なのか、感染症なのかで、必要なケアが全く異なるのと一緒だと思います。だから、一人ひとりの言葉をよく聞きます。決めつけたり、型にはめたりしたくないなと思っています。

 同時に、どんなに違うと感じても、同じ人間であることを忘れたくないなと思っています。とても嫌な人に見えても、同じ人間。嬉しい感情もあれば、哀しい経験、つらい思いをしていることもある。だから「この人は、私には分からない全く別の人だ」と線を引くのでなく、やはり言葉に耳を傾けていきたいな、と思っています。

 思っているだけでできないことの方が多いので、私も日々努力しています(ちなみに普段はできるだけルーズな服を着て、わがまま放題なので、偉そうなことはいえません)。

ーー漫画内では明るく楽しく、時にホロリとさせられるエピソードがたくさん散りばめられています。ツアーナースをしていて特に嬉しかった思い出を教えてください。

明:やはり、子どもたちや先生に「明さんがいて良かった」といわれるのが一番嬉しいです。看護師といっても、ツアーナース中は見守ったり、話を聞くだけのことがほとんどです。病棟では医師の指示に従って投薬したり、注射したりしますし、患者さんの生活指導のようなこともします。ですが、ツアーナースには、そうした積極的なケアはできません。「役に立っているのかな?」とか「何もできていない……」と感じることはよくあります。だから、子どもたちや先生が、ツアーナースがいることで、安心してもらえると、とても嬉しいです。

ーー作中で明さんが、コロナでツアーナースの仕事ができない日々を送る中、「子どもたちのエネルギーがそのまま私の力になってたなー」と振り返るシーンが印象的でした。「人が成長する姿にこそ元気をもらえる」という考え方について、改めてツアーナースの視点からご説明いただきたいです。

明:子どもに限らず、成長する姿や頑張っている姿が、私は大好きです。それは病棟で看護師をしていても、いつも感じていました。聞いたこともない病気になっても、自分で学び、立ち向かっていこうとする患者さんの姿や、余命わずかと宣告されて尚、残された時間を精一杯に生きる姿にいつも胸を打たれました。そんな姿を見ると、「私も頑張ろう」「少しでもこの人の力になろう」とエネルギーがわいてくるのです。

 ツアーナース中は、のびのびと成長する子どもたちの姿にたくさんふれます。でも成長って、困難の連続でもあり、ケガもするし、悩んだり、泣いたり、迷ったりもします。それでも、子どもたちは一つ一つ壁を破って、大人へと成長していくわけです。持病を持つ子に出会うこともありますが、彼らの前に待つ困難な道さえ、小さな体でかき分け、前へ前へと進もうとします。そんな姿を見ると、お腹の底から何か熱いものが湧きあがり、目の前でキラキラと光るような気がします。自分の狭い世界が、ぱっと広がり、急に輝きだすような気さえしてきます。胸がホカホカして、とても素敵な気持ちになります。その瞬間を体験したくて、何度もツアーナースに出かけていくわけです。

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