『このすば』に匹敵する“外道な笑い” 暁なつめ『戦闘員、派遣します!』の魅力とは

「笑い」「パロディ」を体現するラノベ

 ロシアの批評家・文学理論家ミハイル・バフチンは『フランソワ・ラブレーの作品と中世・ルネサンスの民衆文化』のなかで、民衆文化の特質は「笑い」にある、とした。支配的な権力は一本調子で生真面目、肉体を蔑視し、恐怖による統治を志向する。対して笑いは権威を格下げし、肉体を直撃し、恐怖を打ち消して陽気にさせる。そしてまたバフチンは、『小説の言葉』などでパロディの意義を強調してもいる。

 現代日本には、笑いに対する旺盛な需要があり、パロディが好まれる小説ジャンルがある――ライトノベルである。

 「小説家になろう」に投稿し、角川スニーカー文庫から刊行された『この素晴らしい世界に祝福を!』で知られる暁なつめの『戦闘員、派遣します!』(やはりなろうに投稿され、スニーカーから書籍化、そしてTVアニメ化)はバフチン理論を想起させずにはおかない作品だ。

 『このすば』は卑怯で利己的なカズマ、偉そうにしているがポンコツな駄女神アクア、爆裂魔法(のみ)の使い手めぐみん、被虐嗜好のある変態ダクネスが、なろう系やRPGの「あるある」をいじりまくったパロディで読者を笑いの渦に放り込む傑作だった。

 『戦闘員、派遣します!』は世界征服を目論む悪の秘密結社所属の戦闘員六号が、地球からある星に侵略目的で転送され、彼の地で傭兵として魔王軍と戦いながら、惑星調査・侵略を遂行していくという、やはりパロディ要素の多いコメディである。

 主人公六号はカズマに勝るとも劣らない卑怯・外道ぶりを発揮し、彼を取り巻くのは『このすば』同様クセ者(アホとも言う)ぞろいの女性たちである。

 悪事を働くと悪行ポイントが自動的に加算され、ポイントを使うことで装備やエロ本が調達できることから、六号はズボンのチャックを開けながら女性に迫るといった悪事を積み重ねて子どもたちから「チャックマン」とからかわれたりする。この「悪行ポイント加算」という設定のおかげで、主人公がしょうもない小悪事を連発して笑いを取ることが作中内で正当化されているのが白眉である。いや、もっとちゃんと悪いことしろよ。

 ファンタジーやRPGのお約束をいじる手つきももちろん健在で、召喚した大悪魔が「なんでも願い事を叶えてやる」と言うと、六号と行動を共にするアンドロイドのアリスは「惑星を2、3個作れ」とか「この星の生物をすべて消せ」などと言って困らせ、怒った大悪魔に「心臓を止めてやる!」と攻撃されるが機械に心臓はないのでノーダメージ。あげくトイレ掃除を命じたりする。徹頭徹尾ふざけている。

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