高杉真宙が語る、漫画から学んだ精神 「立ち上がるか、立ち上がらないか、というのが1番重要」

 中学生でデビューして以来、映画にドラマ、舞台と出演作が途切れない俳優・高杉真宙が、1stフォトエッセイ『僕の一部。』(幻冬舎)を上梓した。本作は、WEBサイト『幻冬舎plus』で2018年の3月から3年にわたって連載した、読者からのお悩みに、毎回高杉が「処方箋」となるような漫画作品を紹介する「漫画喫茶・タカスギ」に、書き下ろしと撮りおろし写真を加えて書籍化したもの。

 「リアルサウンド ブック」は大の漫画好きで知られる高杉にインタビューを実施。おすすめの漫画を聞くと、すぐに何作もの作品名があがったり、一つ一つの質問に対して熱く語る姿が印象的だった。そんな高杉に、連載を通して感じたことや、今年4月に個人事務所を設立し、新たなスタートを切った今の心境などについて聞いた。(根津香菜子)

悩みに合った漫画を探すことで自分の世界も広がった

――お悩みに対して毎回“処方箋”になるような漫画を紹介するのは面白い試みです。作品のセレクトから原稿を書くまで、どのくらい時間がかかりましたか?

高杉:書き始めたら1日で終わることもあるんですけど、その悩みに対してどう受け止めて、どう応えたらいいのか、それにはどの漫画がいいのかと考える時間も含めたら1週間くらいかかりましたね。紹介する漫画を見つけるまでにも結構時間がかかるんです。「その質問や悩みに合うものはどれかな」とか「この漫画を紹介したいけど、それにあう質問は来てるかな」と考えると、僕自身が色々な漫画を読まなければいけないので、そこに時間がかかった時期もありました。

――ご自身の中に紹介する作品のストックがないと引き出せないですよね。

高杉:そうですね、なので色々調べました。調べたうえで、その中からピックアップした漫画を読んでいくという作業も必要ですし。でもそこで出合った作品はすごく多かったので、そういう意味では自分の広がりもたくさん生まれました。 

――読者の方からのお悩みに対して「僕も同じです」や「その気持ちわかります」というように、高杉さんも同調しながら丁寧に向き合っているなという印象を受けました。高杉さんは皆さんからのお悩みに対してどんな印象を持ちましたか?

高杉:僕自身の悩みよりも大変な悩みが結構あるなぁと思っていました。僕はこれまで、知り合いの方からでさえ悩み相談をされる経験が少なかったし、悩みに応えるということは責任を伴うものだと思っているので、どこかのだれかが僕の答えによって何かが変わるというのは怖いことでもあると思っているんです。なので、できるだけ僕自身が悩みに応えられるもの、共感できるものを主にピックアップしていましたね。

――書き下ろしを含め26回にわたって皆さんのお悩みに応えてきましたが、読者の方の悩みに向き合うことでご自身に変化や気づきはありましたか?

高杉:「僕は書くことが好きなんだな」ということや、「僕ってこういう考え方の持ち主なんだな」とか、書くことによって自分が見えてくることが多かったです。この連載はそれを伝えられる場所だったからこそ「僕自身はこう思う」ということがつらつらと書けるので、文章を通して自分を俯瞰して見られた気がしますし、それが書くことの良いところだと思いました。

集めた漫画を手放すのは、これまでかけてきた時間を捨てるようで悲しい

――ご自宅の本棚には、約1500冊の蔵書があるそうですね。

高杉:もうちょっとあると思います。今、引越しを機にちょっとずつ減らそうと思っているのですが、その作業が悲しいんですよね。部屋にある漫画は自分がこれまでかけてきた時間でもあるので、その時間を捨てていくのは悲しいです。 僕、コレクション癖があるので捨てられないんですよ。だから溜まっていく一方だったので、引っ越しするタイミングでちょっと気合を入れて片付けなきゃと思っているんですけど「まだ読むんじゃないかな」とか「もう1回読んでからにしようかな」って思ったりするので、なかなか捨てられない……。だけどそういう思いも一旦全部忘れて、今はがんばって整理しています。

――ところで、高杉さんは面白い漫画に出合うと思わず立ち上がるそうですね。それは気持ちが「おぉっ!」と高まるからですか? 

高杉:例えば、サッカー観戦していてゴールが決まった時に「おーっ!来たーっ!!」ってなるじゃないですか。それと一緒です(笑)。

――「来たー!」となるのはどういうところで?

高杉:僕の中ではそうなるポイントがいくつかあるんですよ。漫画でいうと『ボールルームへようこそ』(竹内友/講談社)や『東京トイボックス』(うめ/幻冬舎コミックス)、『シャドーハウス』(ソウマトウ/集英社)や『左ききのエレン』(かっぴー、nifuni/集英社)も「うお~っ!」ってなった記憶があります。僕は割とお仕事漫画やスポーツ漫画を読むことが好きなので、そのジャンルに偏りがちかもしれないのですが「うお~っ!」ってなる作品を常に探しています。

――心が震えると言えば、本書でも紹介していた『王様ランキング』(十日草輔/KADOKAWA)は泣けますよね。高杉さんは漫画を読んで泣くことはありますか?

高杉:ありますよ。僕も『王様ランキング』は結構泣いた気がします。あとは『あさは、おはよう』(大澄剛/少年画報社)も良かったです。今回のエッセイで紹介した作品は僕の趣味の偏りが出てしまっているので、意外と泣けるものは少ないかなぁ。

――では“泣きたい人に贈る漫画”を教えてください。

高杉:『兎が二匹』(山うた/新潮社)が良かったです。自殺を繰り返しては甦る不老不死の女の子と、その子を育てた男の子のお話で2巻で終わるんですけど、僕の中では感動したランキングに入る作品です。

――高杉さんに紹介していただくと、どれも読んでみたくなります! 最新の漫画で、おすすめ作品はありますか?

高杉:僕、2021年のベストは『推しの子』(集英社)なんじゃないかなって思っています。『かぐや様は告らせたい』(集英社)を描いている赤坂アカさんと、横槍メンゴさんのコラボ作品なんですけど、ソウマトウさんの『シャドーハウス』が2020年の面白かった漫画NO.1だと思っていて、2021年は『推しの子』だなって思っていたら、WEBの「少年ジャンプ+」で連載中の龍幸伸さんの『ダンダダン』も来て、今はこの2作のどっちかかなと思っています。最近、「少年ジャンプ+」が熱いです。そこで育った素晴らしい作品がどんどん出てきているんですよ。『SPY×FAMILY』(遠藤達哉/集英社)も面白くて、僕はWEBでも見て、単行本も買いましたから。それと『姫様“拷問”の時間です』(ひらけい、 春原ロビンソン/集英社)というギャグ漫画も面白かったです。WEBで掲載している作品にも結構注目しています。

――漫画業界の分析まで! その他に気になる作品はどこで見つけていますか?

高杉:表紙買いすることもありますし、話題になっている作品も読みます。あとは好きな作家さんの作品とか、結構色々ですね。本屋さんには定期的に行くようにしています。僕、本屋さんに行くのがすごい楽しみなんですよ。今後はもうちょっと小説も読むようになりたいんです。昔は割と読んでいたんですけど、台本を読んでいるのと小説を読むのって感覚が似ているから、この仕事を始めるようになってからはあまり小説を読めなくなってしまったんです。だけど、多分僕が好きなテイストのものって小説に多いと思っているんです。漫画もそうですが、映画やドラマ、舞台とかで好きなテイストがあって、割とどんでん返しがある作品が好きなんです。あ、あと僕『自殺島』(森恒二/白泉社)が大好きなんですよ。

――サスペンス要素ありのサバイバル作品ですね。

高杉:ああいう感じの作品を小説でもずっと探しているんです。あとは一晩の物語を5人の視点で描いている『運命じゃない人』という内田けんじ監督の作品が大好きで。群像劇であり、サスペンスであり、ラブコメディでもあるんですけど、そういったテイストの小説がもっとあると思うので、これからはサスペンスや推理小説とかも探していきたいです。 

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