『炎炎ノ消防隊』異能バトル漫画としての新しさとは? 能力を“炎限定”にしたことの画期性

「炎」を用いた異能系バトルの醍醐味

 本作は様々な独自の能力を駆使して戦う、異能系作品である。作品内で常に中心的な事象となる「人体発火現象」。作中では人体発火現象により“焔ビト化し自我を失ってしまう人”を第一世代、“炎を操れる人”を第二世代、“炎を生み出して操れる人”を第三世代と呼んでいる。この第二世代と第三世代には、それぞれが扱う特殊な能力があてがわれているのだ。従来の人気異能系作品には、自由な発想から生み出される奇天烈な能力が多く登場した。むしろ能力設定の意外性が高く、柔軟な発想を見せた作品ほど高い評価を得ていると言っても良いだろう。しかし『炎炎ノ消防隊』で描かれる異能系統は、「炎」だけである。つまり簡単には把握しきれないほどいるキャラクターの異能を、全て炎にまつわる能力にしなければならないのだ。

 主人公・森羅日下部は第三世代能力者だ。足から炎を噴射でき、それによる加速や空中移動も可能である。主人公の周りにも“炎を超高温状態にして作り出すプラズマを用いる能力者”や、“熱音響冷却を起こし、炎を氷に変える能力者”など、炎を用いた多種多様な能力者が登場する。そして全員の能力系統が同じであるため、強弱がわかりやすく作品自体に統一感が出るメリットもあった。設定上大きな縛りが付いているにも関わらず、読者をワクワクさせる能力を次々と描く大久保篤の発想力はまさに圧巻だ。

 そして『炎炎の消防隊』の魅力として特筆すべきは、随所に散りばめられたミステリー要素だろう。もちろんアクション描写も大きな魅力である本作だが、作品を読み進めていけば、森羅の生きる世界が謎だらけの不気味な世界であることはすぐに理解してもらえるだろう。

 少年漫画に必須である突飛な設定。しかし本作はその突飛な設定を、ファンタジーでは終わらせない。作中最大の謎であった人体発火現象についても、その仕組みや驚愕の裏側を次々と解明し、中世ヨーロッパのような街並みにも「世界観」の一言では済まないしっかりとした背景があった。

 また森羅が特殊消防官を志た理由には、幼少時のある残酷な事件が関係している。家族が焼け死ぬ際“黒い影”を見た森羅。しかし事件は全て発火が可能な森羅によるものとされたのだ。そのため森羅は自身の家族を殺し罪をなすりつけた犯人を、特殊消防官(ヒーロー)として活動しながら追い求めることになる。様々な謎や伏線が交錯し、紐解かれながらときには線として繋がる感覚。この上質なミステリー作品のような伏線や謎の数々が、本作を一度掴んだ読者を離さない作品へと昇華させている。

 ダイナミックな王道バトルと秀逸な能力の異能、そしてレベルの高いミステリーを絶妙なバランスで掛け合わせた『炎炎ノ消防隊』。謎を解明するために戦い、その謎が、秀逸で統一感のある能力を生み出す。本作はまさに足し算ではなく、“掛け算”でレベルを上げた作品なのである。連載開始から6年が経過しても、未だに第一線を走り続ける『炎炎ノ消防隊』。まだ未読であれば、ぜひ一度触れてみて欲しい。

■青木圭介
エンタメ系フリーライター兼編集者。漫画・アニメジャンルのコラムや書評を中心に執筆しており、主にwebメディアで活動している。

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