サッカー×デスゲーム『ブルーロック』はイカれてる? 世界一のストライカーを生み出す狂気のシステム

ダークヒーロー達がもたらす独特の緊張感

 本作の魅力としてまず特筆すべきは登場人物が全員「ダークヒーロー」として描かれている点だろう。埼玉のスーパースターである吉良涼介は、絵心の言葉に1番嫌悪感を示している。「チームを捨てては行けない」と話す吉良は、絵心を否定するためブルーロックにやって来た。しかしブルーロックの入寮テスト、ボールを使った「オニごっこ」にて脱落したのは吉良だった。従来のスポーツ漫画であれば、王道の主人公としても活躍出来たであろう吉良。しかしブルーロック内では“仲間を思いやる気持ち”や“先人を尊敬する姿勢”は、「正義」になり得ない。

 その一方で、潔は自身のエゴを前面に出し、入寮テストをクリアした。その後も潔は主人公であるにも関わらず、自身の勝利で夢破れた人間を見下し、心の底から「気持ちいい」と優越感に浸る姿さえ見せている。しかし、彼の前には、自分以外はゴミだと言わんばかりのエゴイスト達が次々と現れる。ことブルーロック内でのみ言えば、彼らが紛れもない「正義」なのだ。極限状態に置かれた才能ある選手達は各々のエゴを剥き出しにし、周りの才能に牙を向く。このダークヒーロー達の奮闘が、作品に独特の緊張感を生み出している。

 またブルーロックに集められた選手達は、その時点ですでに才能を認められた人材だ。そしてその中にDFやGKなどの、“縁の下の力持ち”の役割を果たす選手はいない。全員がただ点を取るためだけにサッカーをしてきた、エースストライカー達だ。その中にチャンスで引く者などおらず、その全員が自分こそ1番だと信じて疑わない。しかしいくら才能があり、どれだけ目指す気持ちが強かろうと、ブルーロックで負ければもう一生日の丸は背負えないのだ。全員が全員ブルーロック総指揮の絵心から、トップを獲れる逸材だと見出された300人。選手全員が自分に絶対の自信を持ち本気でナンバーワンを目指しているため、生存争いは常に熾烈で、敗者はより残酷に描かれる。この才能あるエゴイストに焦点を当てた設定が、負けたら終わりのデスゲームと最高の化学反応を起こしているのだ。

 「命」と「金」以外を賭けた異色のデスゲーム系作品として、我々に新たな可能性を見せつける『ブルーロック』。本作はスポーツと“人間の奥底の本質を描く”デスゲームの相性は、これほどまでに良かったのかと感嘆させる出来栄えになっている。「日本サッカーがW杯で優勝するという無謀な夢を、マジで考えたらこんな作品になりました。」と過激なコメントを残し、コメント通り鋭利な作品を漫画界に送り込んだ金城宗幸。さらに、スポーツ漫画とは思えない攻撃的な画風で、本作に命を吹き込むノ村優介の作画も必見だ。最近良い作品に出合えていないと思っている漫画ファンは、ぜひ本作を読んで欲しい。あなたの欲しているアツい漫画、「その全てが“青い監獄(ブルーロック)”にある!!!!」。

■青木圭介
エンタメ系フリーライター兼編集者。漫画・アニメジャンルのコラムや書評を中心に執筆しており、主にwebメディアで活動している。

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