2021年は女子サッカーの年に? 『さよなら私のクラマー』は新たな青春譚の傑作だ

 来栖未加という、第8巻から登場する興蓮館高校の女子サッカー部員は、すらりとした長身と長い黒髪を持った美少女で、和装で琴を弾く姿をテレビで見せてサッカーファン以外からの関心を誘っている。その本性はどこまでもサッカーに貪欲で、最後までボールを追って走り、ゴールを狙い続ける泥臭いプレイヤー。得点王に輝いたインターハイから数日後にサブチームが蕨青南と対戦した試合で、戦いたいからと飛び入りする。ひたむきさに美貌も乗ったプレーぶりは、是非にアニメで見てみたいところだが、そこまで映像化されるかは評判次第といったところか。

 恩田が他の選手からピクシーと呼ばれるに至った、ドラガン・ストイコビッチばりのとてつもない離れ業は、巻数的に映像になりそう。その恩田が男子に混じってサッカーをしていた中学時代が描かれた前日譚『さよならフットボール』は、『映画 さよなら私のクラマー ファーストタッチ』として劇場公開される。

『さよならフットボール』1巻

 アニメを見て、マンガを読んでこんな世界があったのか、こんなプレイヤーが女子サッカーにはいるのかと想像した先に、開催されれば東京オリンピックでのなでしこジャパンの活躍があり、WEリーグでプロとしてピッチにたつ女子選手たちの奮闘が待っている。2021年が女子サッカーの年にならない理由がない。

 2000年のシドニー五輪に出場を逃した後、リーグ戦を戦うチームへの支援が細りどん底を迎えた女子サッカーだったが、選手たちは諦めず、ひたむきなプレーを続けてファンをつなぎ止めた。アテネ五輪出場を果たして関心を取り戻し、世界一という栄冠にたどり着いた。2016年のリオ五輪出場を逃しながらも、WEリーグ設立まで至れたのは先人たちの人一倍の努力があったからだ。

 その上に新たな歴史を積み上げていく選手たちが、『さよなら私のクラマー』の読者であり、アニメの視聴者から生まれてくるか。国立競技場に3万1234人を集めたアテネ五輪最終予選の記録を凌駕する超満員の観客をバックに、新国立競技場で女子サッカーの試合が繰り広げられる日が来るか。期待して見守りたい。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

■書誌情報
『さよなら私のクラマー』1〜14巻完結(講談社コミックス月刊マガジン)
著者:新川直司
出版社:講談社

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