神様VS人類のタイマン描く『終末のワルキューレ』はなぜ面白い? バトルを盛り上げる「堅実なハッタリ」の巧さ

 人類は「大会」が大好きだ。村上春樹がノーベル賞の度に話題になるのは何故か? それは、そこに大会要素があるからだ。スポーツだって文学だって何だって、達人同士が競い合っているのを見物するのは楽しい。それはフィクションでも同様である。今はそうでもないが、かつて週刊少年ジャンプでは「困ったらトーナメント」が合言葉だったし、現在もヤングマガジンの『喧嘩稼業』の陰陽トーナメントや、漫画ゴラクスペシャルの『はぐれアイドル地獄変』の戦乙女闘宴(ヴァルキリー・オペラ)など、気になって仕方がない大会が開催されている。そして2021年現在、最も気になる大会が行われている漫画の1つが、コミックゼノンで連載中の『終末のワルキューレ』(作画:アジチカ 原作:梅村真也 構成:フクイタクミ)だ。

 神様チームと歴史上の偉人チームがタイマンで戦う。神様チームが勝てば人類滅亡……『終末のワルキューレ』は、このシンプル極まりないプロットをハッタリ満載で見せてくれるバトル漫画だ。神様チームのメンバーは、北欧神話の雷神トール、ギリシア神話の海神ポセイドン、インド神話の破壊神シヴァなどなど、とにかく世界中の神様が全て出てくる。対する歴史上の偉人も幅が広い。たとえば『三国志』最強の男・呂布や、剣豪・佐々木小次郎、最強の相撲取り雷電為右衛門と言った実在の人物から、現在も正体が分かっていない伝説の殺人鬼ジャック・ザ・リッパー、果ては“最初の人類”アダムなど、何なら神様以上にバラエティに富んでいる。

シヴァがカバーを飾った『終末のワルキューレ(10)』

 そして本作で特筆すべきは、キャラの立て方の上手さだ。10年くらい前から、神様や歴史上の偉人をキャラクターにした創作物は増えた。トールやポセイドン、呂布といった有名どころは、キャラクターとして様々なコンテンツで擦り倒されている。いったい何本のソーシャルゲームで、これらの名を冠したキャラが出てくるだろうか? ちょっと名前でGoogle検索してみてほしい。美少女化したり、イケメン化したり、三頭身だったり……とにかく色んなコンテンツで、使い倒されている。もう出がらししか残っていない……そう思われた現代にあって、本作は神も偉人も、上手く元からの設定/史実を再解釈、新鮮なキャラクターに落とし込んでいるのだ。たとえば、しばしばクールでスタイリッシュな強キャラとして描かれがちな佐々木小次郎を、実は生涯で一度も勝ったことのない「史上最強の敗者」として、泥臭いキャラにしている。シヴァの場合も、定番である破壊神/戦闘狂という大枠は守りつつ、その過去を完全にヤンキー漫画の主人公として描くことで個性をつけている。何がその人物/神様の魅力で、どの部分を誇張すればよいか? どの部分を外せば既存のキャラと差別化できるのか? こうした点がよく計算されている。とにかくキャラ立てが抜群に上手い。

 さらにキャラクターの見せ方も工夫されており、たとえば本人の回想形式だったり、その神や偉人に近い存在が応援団的な立ち位置から「あいつはこれだけ凄いヤツなんだ」と煽ったり、時にシリアスに、時にコミカルに、時にド直球のパロディだったり(言い訳出来ないレベルで『進撃の巨人』なシーンもある)……キャラクターのエピソードの見せ方もアイディアに富んでいる。神VS偉人というハッタリ全開のプロットだが、一方でキャラクター描写は堅実だ。ハッタリは、技術と計算がなければブチかませないと思い知らされる(本当にハッタリだけで突っ走った結果、破綻した漫画もたくさんあるわけで。『空手地獄変』とか……)。