『呪術廻戦』が描く”裏切り” 少年漫画らしくない新鮮な面白さを考察

 『呪術廻戦』の1番の魅力は、少年漫画としての真新しさだろう。「週刊少年ジャンプ」にて、古くから伝えられているキーワード「友情・努力・勝利」。少年漫画として人気を獲得するのに必要な要素を3つ挙げたこの言葉だが、ジャンプにて人気を獲得した作品には、軒並みこの要素が組み込まれていた。「仲間と共に鍛錬を積み、強大な敵を討つ」、「敵を倒すため奮闘し、仲間の窮地を救う」。読むだけでもワクワクしてくる文章だが、本作ではこのような展開はあまり繰り広げられない。

 代表的なものが、吉野順平のエピソードだ。霊感が強い不登校の少年・吉野順平は、1人の呪霊と知り合いになる。その呪霊・真人は順平を認め、2人は少しずつ距離を縮める。しかしときを同じくして、虎杖も順平と仲良くなっていた。不登校ながらも母親と仲良く暮らしていた順平だったが、真人の策略で母親を殺されてしまう。

『呪術廻戦』3巻(集英社)

 そして真人に学校の人間が母を殺したと唆され、学校を襲撃してしまう順平。手遅れかと思われた順平だったが、駆けつけた虎杖によって肉体的にも精神的にも救われ改心した。虎杖に高専へ誘われる順平だが、その背後から真人が忍び寄る。そして順平は真人に異形へと変えられ、命を落とした。

 また本作では順平に限らず、主要キャラが次々と死ぬ。主人公の師匠とも言える1級呪術師・七海健人も死に、渋谷事変編ではメインヒロインである釘崎野薔薇も生死不明の重体となってしまった。順平や七海の死、特に順平の死に読者は度肝を抜かれた。

 助かると思わせておいて、助からないという“裏切り”。しかし本来であれば、不運な人生を歩んだり、死の瀬戸際まで追い詰められた人間が、助かる方が想定外の“裏切り”なのだ。

 「少年漫画」ではキャラクターは簡単に死なないことが普通だった。『呪術廻戦』は少年漫画らしくない展開を突き詰めることで、真新しい面白さを追求したのかもしれない。

 ダークな世界観でジャンプに新しい風を巻き起こす『呪術廻戦』。本作は少年誌らしくないストーリーを展開し、少年漫画界に一矢報いた作品と言えるだろう。『呪術廻戦』は今後も読者の期待をどう裏切るのか? スリリングなストーリー展開を見届けたい。

■青木圭介
エンタメ系フリーライター兼編集者。漫画・アニメジャンルのコラムや書評を中心に執筆しており、主にwebメディアで活動している。

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