ゾウ編には『ONE PIECE』の原点があるーー短いエピソードに込められたルフィの美学とは?

 そんなモモノ助の気持ちを聞いたルフィは「よくわかった!!」と言って、手を差し出す。このやりとりは『ONE PIECE』で何度も繰り返されてきたものだ。困っている人がいる時、ルフィはまず「お前はどう思ってるんだ?」と相手に問いかけ、その心情を聞き、その上で力を貸す。一方的な正義感でも、損得の計算でもなく、何より相手の気持ちを一番に考えるのだ。

 ルフィはメンツや利害ではなく対等な個人として相手に接し、困っていると聞けば、仲間として喜んで助けの手を差し伸べる。だからこそルフィは、仲間のサンジを助けるためにまずはビッグ・マムのいる万国へと向かい、モモの助のためにカイドウと戦う約束をするのだ。短いやりとりだが、ルフィとモモの助のやりとりは、今まで本作が大切にしてきた『ONE PIECE』(とルフィの美学)が凝縮された名場面である。

 このシーンの他にもゾウ編は、短い中にも漫画としての見せ場がとても多い。何より素晴らしかったのがモコモ公国の土台となっている海を歩く巨大ゾウのズニーシャ(象主)のビジュアルだろう。百獣海賊団を率いるジャックの船団がズニーシャを砲撃する中、モモの助の心の声を聞いたズニーシャが鼻の一振りで船団を一掃する場面は圧巻の一言で、小さな戦いを積み上げることで巨大なグルーヴを生み出してきた今までの戦いとは違うカタルシスがあった。

 四皇との戦いを前に『ONE PIECE』の原点を再確認させられた、名エピソードだったと言えよう。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報

『ONE PIECE』98巻

『ONE PIECE』既刊98巻
著者:尾田栄一郎
出版社:株式会社 集英社
https://one-piece.com/

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