大泉洋の超越的な強さとは? 『水曜どうでしょう~大泉洋のホラ話~ 』漫画家・星野倖一郎×藤村忠寿D 対談

 北海道発の人気バラエティ番組『水曜どうでしょう』内で語られた大泉洋の“ホラ話”を、「水曜どうでしょう祭2019」のメインビジュアルを手掛けた漫画家・星野倖一郎が漫画化した『水曜どうでしょう~大泉洋のホラ話~ 』。水どうファンにはお馴染みの「喧嘩太鼓」や「チャタレイ夫人」、「チューハイム」など、名作ホラ話が”荒々しさ”全開の超劇画で描かれている。本作はすでに2巻まで単行本化されており、3月8日には待望の第3巻が発売予定。

 リアルサウンドブックでは星野氏と『水曜どうでしょう』ディレクター藤村忠寿氏の特別対談を企画。星野氏にはいかにしてホラ話をストーリーとして膨らませていったのか、このマンガで描きたかったこと、『水曜どうでしょう』への熱い思いを、藤村氏にはこの作品のもつパワーと魅力、悪役として描かれる感想、お気に入りのエピソードなど、大いに語ってもらった。

映画やドラマ、アニメではできないことを描きたかった

ーー大泉さんのホラ話をマンガ化すると聞いたときの心境はいかがでしたか?

藤村:大泉が「ほかに描くことないのか」ってコメントしてたじゃないですか。あれと同じ気持ちですよ。活況を呈するマンガ業界の中にあって、こんなことをやってる暇があったらほかのことを描けよっていうね(笑)。

藤村忠寿

星野:僕はただの『水曜どうでしょう』ファンなんです。なので最初にお話をいただいたときは嬉しかったですね。その反面、編集部から「ホラ話描かない?」と言われて、「えっ、ホラ話、大好きですけど……」と、びっくりしました。

星野倖一郎イラスト

ーー出版元である秋田書店としては、どういった流れで企画が立ち上がったのでしょうか?

秋田書店:編集部とオフィスキューさん(大泉洋所属事務所)が知り合う機会があり、「ホラ話の漫画化は可能でしょうか?」とご相談したところから始まりました。反響もよく、『水曜どうでしょう』ファンの方はもちろん、もともとの「週刊少年チャンピオン」読者にも楽しんでいただけたのではないかと思っております。

藤村:嘘ついちゃダメだって。そんなわけないよ。

秋田書店:本当ですよ(笑)。打ち合わせ当初から、雑誌に掲載する以上、『水曜どうでしょう』を観たことがない人にもこのマンガを楽しんでもらいたいという思いもあり、そのために星野先生がものすごく考えてアイデアをたくさん出してくださったおかげで、読者の方に受け入れていただけたんだと思います。実際、『水曜どうでしょう』ファンの方からも、もともとの雑誌読者の方からもたくさんの感想ハガキをいただきましたし。

藤村:うそつけ!(笑)

ーー「ホラ話」をマンガ化するうえで苦労したことありましたか?

星野:まず、どのホラ話をマンガ化するかというテーマ選びが大変でした。いろいろ考えた結果、最初に知名度が高く、DVDのチラシなどでホラ話が掘り下げられている「喧嘩太鼓」からはじめて、ペースを掴もうと考えました。

©HTB/CREATIVE OFFICE CUE 2020 / ©星野倖一郎(秋田書店)2020

藤村:最初は「ホラ話」をマンガ化したところで……と思っていましたけど、読んでいる時にマンガの強さみたいなものを感じましたよ。「喧嘩太鼓」っていうくらいだから太鼓で相手を負かす、ふんどし一丁で荒々しい格好というのはイメージとしてあったんですけど、マンガにすると絵の強さがすごい。それと僕がびっくりしたのは大泉扮する寅吉とヒロインのお竜が夫婦になるところですね。ストーリー的にいきなり過ぎるんだけど、絵の力でもっていかれる。ドラマだとここまで思いきった展開はできないと思うので、これがマンガのすごさなんだなと思いました。

星野:ちょっとおこがましいんですけど、映画やドラマ、アニメではできないことを描こうという気持ちはありました。だって、あのホラ話をドラマにしたら30分もたないですから(笑)。

藤村:もたないですよ。どこかで破綻しているもん。だからこれがね、1ページ1ページあるマンガの強さですよ。ページをめくった先に力強い絵があると飲み込まれてしまう。

星野:僕も可愛い女の子をたくさん描いて売れたいと思っていたので、こんなに濃い絵をたくさん描けるとは思っていませんでした。

藤村:そうですよね(笑)。このマンガは若干時代遅れですもん(笑)。

「ホラ話」で描かれるマンガの力強さ

ーー本作には画風的にもストーリー的にも80年代の雰囲気があると思いました。

藤村:もともとは大泉のホラ話をマンガにするという編集部のふざけた考えですけど、星野先生がこれを描いたおかげで、図らずも70年代、80年代のマンガの力強さを今の世に知らしめることができた。こういう読者を殴りつけてくるてくるようなマンガの力強さは懐かしい。こういう狙いが編集部にあったんだったら褒めるけど、多分そうじゃないと思うんだよ。ただおもしろそうだからやってみようっていう(笑)。

星野:そういうマンガを読んできて得たものが僕にもギリギリ残っているんです。大泉さんとも読んできたマンガが近いのだと思います。

藤村:本宮ひろ志先生のマンガなんか、バンとページ開けたらすっごいエッチなことをしている。意味はわからないんですけど、そういうものに憧れがあったんでしょうね。今のマンガだったら、男はもうちょっと情けないものだし、男女の機微を描きますけど、ここに出てくる大泉はやっぱり荒々しい(笑)。

星野:『どうでしょう』や大泉さんを好きな方に読んでもらえると思っていたので、ふざけずに本気で「絵で殴る」ということは意識しました。

藤村:そうでしょう?最近、読者を殴りつけてくるようなマンガってないんですよ。「喧嘩太鼓」では、町の長老として嬉野さんも登場するんですが、何が始まるかと思いきや、寅吉がピンチの時に、「月がー出たー出たー」って歌い出す。今度は彼の手拍子で住民たちが歌い出すわけです。この時の嬉野さんの顔と、「月がー」の書体。これがいいんですよね。力強さと共に住民の悲しみがこの書体に表れているんです。

©HTB/CREATIVE OFFICE CUE 2020 / ©星野倖一郎(秋田書店)2020