高橋留美子「人魚シリーズ」と『鬼滅の刃』の共通点とは? 人の欲望に根ざした“闇”の深さ

 私はこの「人魚シリーズ」の根底に流れる人間の闇のような部分が好きです。2020年にどハマりした『鬼滅の刃』にも同じものを感じます。「不老不死」「異形の強いものとの戦い」「家族愛がテーマ」のあたりは共通していますよね。でもなによりどちらの作品も「人の欲望に根ざした闇」に取り組んでいるところにすごく魅力を感じます。この、どよーんとした曇り空のところがたまらなく好きなのです。

 20代の頃、年上のお姉さんにこんなことを言われました。「人は、どうしようもなく孤独なんです。パートナーがいたって通じ合うとは限らないし、看取ってもらえるとは限らない。死ぬときは1人なんです。それを理解しないといけません」。当時はまだ夢を見ていて「そんなことはない」と思っていましたが、今ならわかります。そうそう孤独を埋めてくれる人なんていないし、一緒に死ねるとも限らない。でもだからこそ、「永遠に生きることの孤独」が描かれる際には「絶対無二のパートナー」がセットになるのですね。

 『ポーの一族』のエドガーにもアランというパートナーがいました。ああ、そうだ、でも『鬼滅の刃』の無惨にはパートナーがいない。だからあんなに荒れてるのかな、荒れてるからいないのかな、なかなか業が深いです。

 短編のマンガは、無駄がなくてコンパクトでテンポがいいので引きこまれます。このシリーズも、湧太と真魚が出会う人たちにどんな闇があるのかが、各話のテーマになっています。そう、冒頭だけでは誰が悪者なのか、誰に同情したらいいのか、わからないんです。人魚がどんなふうに物語に関わってくるかも見どころです。肉だけではなく肝だったり、乾燥させて粉にすしたり、人魚の使い方もさまざま。それが物語にバリエーションを加えています。この謎解きのようなワクワク感もたまりません。

 ところで、人魚の肉がもし目の前にあったら、食べます?

 食べたら90%くらいの確率でめっちゃ苦しんで死ぬ。9%くらいは化け物になる。不老不死になるのは1%くらい? 宝くじよりは当たるけどかなりのギャンブルです。

 私だったらどうするかな……。重病や大けがで余命いくばくもない、というときになら食べるかもしれないな。それ以前に不老といっても現在すでにけっこう年取ってるし、不死になりたいかというと、ちょっと微妙かも。やっぱり自分からは進んで食べないかな。

■和久井香菜子(わくい・かなこ)
少女マンガ解説、ライター、編集。大学卒論で「少女漫画の女性像」を執筆し、マンガ研究のおもしろさを知る。東京マンガレビュアーズレビュアー。視覚障害者による文字起こしサービスや監修を行う合同会社ブラインドライターズ(http://blindwriters.co.jp/)代表。

■書籍情報
「高橋留美子 人魚シリーズ」(少年サンデーコミックススペシャル)全3巻
著者:高橋留美子
出版社:小学館
価格:各576円(税込)

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