Netflixはなぜ圧倒的な成功を収めたのか? 「結果がすべて」の冷徹な人事戦略

従業員は「家族」ではなくスポーツのような「チーム」(だから適応できなければ切る)

 Netflixは当初、店舗型DVDレンタルを展開するブロックバスターに対してオンラインでDVDを郵送するレンタルビジネスを展開、「延滞料がいらない」と謳って定額のサブスクリクションモデルを打ち出すことで急伸し、ブロックバスターがオンラインレンタルに乗り出すと巨額の赤字を垂れ流しながらつぶし合いを繰り広げてついに勝利した。

 しかし、ヘイスティングスは早くから「DVDレンタルはあくまでストリーミングへの移行のための布石にすぎない」とにらんでいた。

 ブロックバスターに勝つとオンラインレンタル料金の値上げをしたうえに「クイックスター」という会社にレンタルサービスを分社化。

 これにはDVDレンタルサービスの長年のファンから猛反発を喰らってもう一度Netflix本体に吸収することになり、しかし、結果としてはオンラインレンタル事業の縮小・撤退は早まり、クイックスターに移籍した古残スタッフは100人単位で失職した。

 人事の責任者マッコードの本1には、環境や事業が変化したら今いるスタッフに任せるのではなく外から人材を採用し、変化に適応できない人には十分な退職金を払って去ってもらう、その方がお互いにとってWIN-WINだ、と書いてあるが、2キーティング本を読めばわかるように、現実にはヘイスティングスの早すぎる判断の尻拭いを従業員がさせられていたりもする。

 ヘイスティングスもマッコードも自身の本ではきれい事を書いているが、キーティングやランドルフの本でわかる、Netflix創業からIPOまでの社内外とのゴタゴタや切った張ったを見ていくと、「ヘイスティングス、サイコパスなのでは?」と思うほど、結果を出せない事業や人間に対して冷徹だ(一方で、自分のミスや思い込みを正してすぐに軌道修正する実直さもある。ただ彼は何度失敗しても今のところ追い出されておらず、特権的な地位にいることは間違いない)。

 その冷徹なスタンスをヘイスティングスは「われわれは家族なのではなくチーム。プロスポーツで結果が出せなければ契約が切られるのと同じ」と語る。

 ただ創業から何年も苦労を分かち合ってきた人間たちに対しても「これからはストリーミングに力入れてくんで、バイバイ」ということを容赦なく実行できる――しかも実際やったあとはDVDレンタル時代のNetflixの熱狂的なファンであるブロガーなどにぶっ叩かれているが意に介していない――。

 ここにも「プロセスはどうでもいい(から極力シンプルにする)、結果がすべて」というNetflixの精神が現れている。移り変わりの早いビジネス環境の変化に適応するべく、その時々に圧倒的なハイパフォーマンスを出せる人を採り、必要なくなれば積極的に早めに切って新陳代謝していく。これがNetflixの強さを生んでいる。

 Netflix関連本を読むと、おそらく10年後、20年後にこの会社は今のような事業を中心にしていないのではないか、と思わされる。そういう意味では「ストリーミングサービスに移行してからどんなマーケティングをしてきたか」などという話は本質的ではない。Netflixとはどんな組織なのか、その体制・方針はいかにしてできたのか――つまり、本で読んでわかることのほうがよほど重要だ。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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