『美味しんぼ』海原雄山は単なる暴君ではない? 厳しさの裏にある優しさと正論

低予算披露宴対決(62巻)

 「全国テレビ」の滝遼子というキャスターが、究極対至高の対決を行う東西新聞・帝都新聞の幹部に対し『究極のメニュー』と『至高のメニュー』は「現在の日本社会の腐敗と堕落の象徴」「財政が厳しいなかで、贅沢なグルメごっこをして一体どうなるんです」とこき下ろす。さらに週刊タイムについても「食べ物という神聖なものをおもちゃにしている」と断罪した。

 栗田の尽力で、中松・大石両警部と快楽亭ブラックの3組の結婚披露宴を対決の場となり、反論することになった雄山。結婚式当日、滝から「至高のメニューのお手並みを拝見させていただきます」と声をかけられる。

 すると雄山は「ニュースキャスターか何か知らんが、最低の礼儀もわきまえておらんのか」「仮にもこういう宴に招かれたんだ。まず、三組の男女の新しい門出を祝う気持ちを持つのが人間というものだろう。私もそのつもりで料理を用意した。それを小賢しくもお手並み拝見とは浅ましい」「人の道を学び直すことだ」と一刀両断した。

 滝は雄山の指摘に苦虫を噛み潰すしかなくなってしまう。まさに「正論」だった。

雄山の危機(72巻)

 交通事故で意識を失い、生死の境を彷徨う雄山。栗田に連れられ病室に入った山岡が去り際に放った「おやじ…」の一言で、奇跡的に目を覚ます。

『美味しんぼ』(72巻)

 その日、美食倶楽部でアジアの首脳が日本の政治家に招かれ宴会をすることになっており、雄山は「こうしてはおられぬ、チヨ支度せい。仕事に戻る」と点滴を自ら外す。医師は「とんでもない絶対安静です」と警告した。

 世話役のおチヨは、雄山の代わりに山岡が美食倶楽部の指揮を執っていることから、「士郎さんを信じてあげてください」と止めるが、雄山は「奴がマトンを扱うわけがない」とお構いなし。

 和服に着替えて立ち上がると、医師は「全く無茶過ぎる。私は責任取れませんぞ」と止めるが、「私の身体だ。私が責任を取る」と却下。栗田は「どうしてそんな無理をなさるんですか。アジアの首脳陣をお招きする大事な宴会であることはわかっていますが、それでもご自分のお体のほうが大事でしょう? 命にかかわるんですよ」と強烈に止める。

 雄山は「客の社会的地位など関係ない。美食倶楽部で客をもてなすのはその客が誰であろうと、私にとって真剣勝負なのだ。命に関わらない真剣勝負はない」と叫ぶ。この迫力に、栗田とおチヨは止めることを諦め、無理を承知で美食倶楽部に雄山を運ぶのだった。

 客の社会的地位を顧みず、相手をもてなす姿勢。そして、常に真剣に仕事に取り組む。そんな雄山に、感動する読者も多かったのではないだろうか。

雄山人気の秘密は…

「海原雄山」と聞くと、暴君でパワーハラスメントを厭わない人物というイメージを持つかもしれない。しかしそれは誤解で、実は優しさに溢れるとともに、仕事に取り組む、熱い男なのである。そしてそれが、雄山に心酔する読者が多数存在する秘密なのだろう。

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