アニメ化決定『ましろのおと』の見どころは? 羅川真里茂の“人生を描く”筆力

「家族」と「よその家族」

 雪はクールだが、情に乏しいかというと決してそういうわけでもない。上京した雪が世話になるのが、「たぬきち食堂」の店主・山野寅治と娘の桜だ。食堂のほか、下宿も経営しており、雪のことも親身に面倒を見ている。

 ある時、寅治が脳梗塞で倒れてしまう。倒れたことを後から知らされた雪は、その事実を知りながら黙っていたマネージャーに憤りをぶつける。しかし、寅治が倒れたところに居合わせた舞は涙を浮かべながら雪を怒鳴りつける。

「あんたが知ったドゴで何出来だってな!? 家族じゃないんだがらっ!」

 この言葉をきっかけに、雪は「家族」と「家族ではない人たち」の差を感じ、家族ではない自分だからこそできることは何かを模索し、また成長していくことになる。

 人は、ひとりで生きることはできない。育った環境や、その過程で関わることになる人たち、特に家族というのは人格や人生に大きな影響を与える。羅川作品はキャラクターたちのルーツを描くことで、よりその人物像に説得力を持たせている。ひとりひとりの人生が厚く描かれ、それが束になっていることで、より物語全体もスケールが大きくなり、読み応えが増していく。

 本作も、あまり馴染みのない「津軽三味線」を題材にはしているが、いくつもの人生が丁寧に描かれているからこそ、読者を掴んで離さない魅力的な物語になっているのではないだろうか。

(文=ふくだりょうこ(@pukuryo))

■書籍情報
『ましろのおと』1〜26巻発売中(講談社コミックス月刊マガジン)
著者:羅川真里茂
出版社:講談社
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