『僕のヒーローアカデミア』緑谷出久が目指す“最高のヒーロー”とは? 死柄木弔との対比から考察
ヒーローにも、ヴィランにも成り得たのかもしれない
デクたちの敵として立ちはだかる大きな存在として、物語の序盤から登場するのが死柄木弔だ。弔は子どものころ、デクと同じように無個性だったがヒーローに憧れていた。しかし、デクとは異なり「ヒーローになりたい」と言うことを禁じられていた。「ヒーロー」という単語さえ禁句だという家庭で育った弔は、あることをきっかけに崩壊の個性が発現し、家族を殺してしまう。ひとりになった幼い弔は街をさまよい歩くが、誰も助けの手を差し伸べてくれなかった。もちろん家族を殺した直後で異様な形相をしていたせいもあるかもしれないが、「あの時もし誰か手を差し伸べてくれたら」という想いは残る。
一方で無個性だと診断されたとき、デクの母親は謝る。個性がある体に産んであげられなくてごめんね、と。しかし、それでデクの心が癒されたわけではない。本当に言ってほしかったのは「君はヒーローになれる」という言葉だった。個性があってもなくても「ヒーローになれる」と誰かに言ってほしかったのだ。デクは、幸運にもその機会に恵まれた。しかもその「誰か」は、自分が憧れて止まないオールマイトだった。
しかしもし、デクがヒーローになりたいという気持ちを抑え込まれ、絶体絶命のときに誰も助けてくれなかったとしたら?
タイミングや環境の差。本人たちの意思ではなく、ほんのちょっとした違いで立場は変わる。
「これは僕が最高のヒーローになるまでの物語だ」
デクが言う「最高のヒーロー」とはなんなのか。戦い傷つき、デクが見つける答えとは――。
(文=ふくだりょうこ(@pukuryo))
■書籍情報
『僕のヒーローアカデミア』(ジャンプコミックス)既刊28巻
著者:堀越耕平
出版社:集英社
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