『僕のヒーローアカデミア』緑谷出久が目指す“最高のヒーロー”とは? 死柄木弔との対比から考察

 『週刊少年ジャンプ』で2014年より連載中の堀越耕平『僕のヒーローアカデミア(以下、ヒロアカ)』。アニメ化のほか、2019年に『僕のヒーローアカデミア The“Ultra”Stage』として舞台化もされている。

 国内外問わず人気の『ヒロアカ』の主人公が緑谷出久、通称“デク”。超常能力が発現しない無個性だった彼がヒーロー育成の名門校、雄英高校ヒーロー科に入学し、ヒーローを目指してその道を歩み出す。

 ヒーローと聞くと何が思い浮かぶだろうか。完全無欠、優しい心、正義の味方。しかし、ヒーローも人だ。『ヒロアカ』に出てくるヒーローたちも、それぞれの悩みや屈託を抱えている。ヒーローとは何か、そして正義とは何か、もともとは無個性だったデクの存在はその定義についてより強く問いかけているように思う。

なりふり構わず人を助けようとする危うさ

 個性を持っていなかったデクはナンバーワンヒーローのオールマイトと出会ってその運命が変わる。幼なじみの爆豪が敵・ヴィランに人質にとられたところに遭遇したデク。個性はない、人並み外れた戦いの能力を持っているわけでもない。にもかかわらず、爆豪を助けるために飛び出した。 

「考えるより先に体が動いていた」
「君もそうだったんだろう!?」

 デクの行動の一部始終を見ていたオールマイトはそう言い、自身の個性である「ワン・フォー・オール」を引き継ぐ。無個性だったデクが強大な力を手に入れるが、コントロールできずに、初めてその力を使った雄英高校の入試で大ケガを負ってしまう。

 周りの受験生たちは発展途上とは言え、すでに自分の個性とはそれなりの付き合いがある。自分の実力をそれなりに知っているのだ。しかし、デクは個性と初対面の状態で、自分でもその実力は未知数。それでも、人を助けるために飛び出してしまう。「怖い」と「助けなきゃ」がせめぎ合い、「助けなきゃ」が勝つ。恐ろしいのが、自分のことは二の次なのだ。助けられたとしても、無傷でいられることは少ない。しかし、そんなデクの真っ直ぐな思いは周りの人間の気持ちを掴んでいく。

希望を得たデク しかしヒーローは人を照らすばかりではない

 最初はデクのことを気にも留めていなかった雄英のクラスメイトたちも、その規格外のパワーに次第に放っておけなくなっていく。オールマイトから受け継いだ力に加え、純粋な「ヒーローになりたい」という気持ち、持ち前の勤勉さ、優しさ、好きなことに夢中になれる集中力。ヒーローになりたいという気持ちと同じぐらい、デクはヒーローオタクだ。個性がなくても、ヒーローの研究を続けてきており、彼の中に知識として貯まっている。それは一朝一夕では得られないものだ。

 ずっとデクを見下してきていた爆豪のように、デクを気に入らないと思う者もいた。デクはいじめられっ子で影にいるようなキャラクター、だったのは1巻の序盤だけで、自分もヒーローになれるかもしれない、と感じ始めてからキラキラと輝き出す。すると、自然と彼のそばに影ができてしまうのだ。

 もちろん、彼が所属する雄英高校1年A組の面々は根はいい人ばかりなので、しっかりと自分と向き合えば、ダークサイドに落ちずに済む。それでも、あまりに輝く光があり、自分が影になってしまうと気持ちは沈み込み、下を向く。それはある種、さまざまな作品で描かれるヒーロー対ヴィランの構図の序章なのかもしれない。

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